第9話『宮田博子』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


009『宮田博子』   





 ジャンボジェットの子だ!



 ほら、合格者説明会が終わって帰ろうとしたら、空見上げててぶつかってきた子。


「どこの航空会社のなんですか?」


「え、ああ……家にあったの持ってきただけでぇ」


「ロゴとか……無いのは、きっと特別製なんですねえ、聞いたことあります。ベテランのスチュワーデスは特注のキャリー持ってるって! へーー、いいなあ、カッコいいなあ」


「アハハ(^_^;)」


「え、ひょっとして椅子になるんじゃないですかあ!?」


「え、椅子?」


「ちょと、失礼……ここを、こうやって……」


 カチャカチャ


「ほら!」


「あ、ああ……」


 これは究極のババキャリーだ……ほら、くたびれたお婆ちゃんが、公園とかでキャリーを椅子にして寛いでる。若者は絶対持ち歩かない奴だよ(-_-;)。


「スゴイです! 特注中のトクチュ……テ、舌噛んでしまいました(;'∀')」


「あはは」


 こないだのジャンボジェットほどじゃないけど、チラ見していく人が結構いる。半分は、この飛行機オタクっ子のせいだけどね。


 見渡すと、キャリーを持ってきているのはわたし一人……どうやら1970年、キャリーバッグを使っているのはスチュワーデスぐらいみたいだ。


「あ、わたし宮田博子っていいます。よかったら、いっしょに周りませんか?」


「え、あ、そうね」


 と、成り行きと勢いで、いろいろの受け渡しをいっしょに周ることになった。


「あたし、時司巡。よろしくね」


 わたしにも常識はある。相手が名乗ったなら、こっちも名乗らなくちゃね。


「トキツカサ?」


「あ、時間の時に、司会の司と書いて時司。めぐりは巡査の巡」


「時間の時に司会の司……」


 手のひらに指で書いて憶えてる、なんか可愛い。


 そう言えば、この子の身長はわたしの鼻の頭くらい。陽気で押し出しが強いせいか、小柄なのに気付かなかった。


「テヘ、物覚え悪いんで」


 おお、テヘペロ! リアルで見るのは初めてかも!


「ううん、いい記憶法だと思うよ」


「お祖父ちゃんに教わったんです」


「そうなんだ。あたしのキャリーもお祖母ちゃんに『持ってけ』って言われて、あ、スチュワーデスとかじゃないんだけどね」


「え、そうなんだ。年寄の言うことって、含蓄ありますよねえ。あ、まあ半分くらいは」


「うん、そうかもね。あ、教科書が早いみたい!」


 校舎の入り口で係りの先生が―― 教科書空いてまーす ――と言ってくれてる。


 教科書は選択授業によって変わるので要注意。


 宮田さんと注意し合って列に並ぶ。


「あ、芸術は同じですね」


「宮田さんも美術なんだ」


「副読本多いですねえ(^_^;)」


「うん、ちょっと多すぎかも」


 地理の地図帳、白地図帳、英語の辞書二冊(英和辞典 和英辞典)、高等英文解釈、国語便覧……


『教科書、副読本は一覧表を基に確認して下さ~い。空き教室を用意していますのでご活用くださ~い』


 不足や間違いがあると、販売店まで行かなければならないらしいので、みんな真剣に確認。


 先に制服の受け渡しをやった子たちは、制服の箱が邪魔そう。


「オッケーです、制服いきましょう!」


 制服は本館前の植え込み前。ゼミ机で結界を張り新入生全員分の制服の箱が積んである。


 フフフ


 やっと憧れの制服だ。


 これのために、わざわざ五十年先の令和から越境入学したんだ。思わず笑みがこぼれる。


「やっぱ、制服はスーツですよね!」


 宮田さんも同類みたいだ。


「靴もね、ローファーを買ってもらったんです。高校の制服って、最後は足もとで締めなくっちゃいけませんからねえ」


「あ、わかる~、中学まではスニーカーでしょ、スニーカーって子どもっぽくって」


「スニーカー?」


「え、あ、これ」


 足元を示すと、また目を見開く宮田さん(^_^;)


「おお……さりげなくもイカシた運動靴ですねえ! 靴底の厚さといい、くるぶしあたりの肉の厚さといい、言われて見なければ分からないさりげなさですけど、自己主張してますねえ……そうか、スニーカーってメーカーなんですねえ」


 スカートの膝のところでスニーカーってなぞってるし(^o^;)


「あ、そういうわけじゃあ……あ、体操服!」


 流れに沿って体操服の場所に移動。


「ゲ、ブルマ!?」


 受け取ってビックリ。


 男子はジャージの上下に丸首の体操服だけど、女子のは体操服の下はブルマだよ( ゚Д゚)。


「仕方ないですねえ、昔から女子はブルマですからあ」


 ぬかっていたあ……まあ、時代なんだ。みんなで穿けば怖くない。




 人ごみを抜けて、あとは帰るだけ。これも縁だから宮田さんに声をかける。




「じゃ、そこまでいっしょに帰ろうか?」


「あ、わたし、もう一つ寄るところあるから」


「え、なにか忘れてたかな!?」


「あ、あそこのね……」


 宮田さんが指差した先には『奨学金申し込⇒』の張り紙。


「え、あ、そか」


「あ、じゃあね、バイバイですぅ」


「う、うん」


「入学式楽しみですねえ、同じクラスになれたらいいですね!」


 健気に手を振って校舎の中に入っていく宮田さん。


 微妙におたついたけど、ほんと、同じクラスになれたらと思った。




 校門を出て仰いだ空、ジャンボジェットが飛んでいく。


 見上げる人は、もういなかった。


 


☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

宮田博子





 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る