第8話『キャリーバッグ』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


008『キャリーバッグ』   





 えーー! 付いて来てくれるんじゃないの!?



 脳みそを経由しないで文句が口を突く。


 今日は諸々の書類提出やら手続き。でもって、教科書販売と制服の受け渡し!


 荷物がハンパない! 学校でも―― 保護者同伴が望ましい ――って言ってたし、とうぜんお祖母ちゃんが付いて来てくれると思ってた!


「1970年だって特務はいるんだよ、まだまだ様子も分からないし、ウカウカ行くわけにはいかないわよ」


「ト、トクム……」


 そうなんだ。


 お祖母ちゃんは特務ってとこに務めてたベテランの魔法少女だった。


 内勤ばっかりで、アップグレードもろくにやってない型落ちだけど、みなし公務員のMS(魔法少女)だった。


 警察よりも自衛隊よりも公安よりも内閣調査室よりもベールに包まれた秘密組織で、その存在は例え総理大臣でもボンクラな奴には知らされないという危ない組織。たぶん、いまの総理大臣は知らされてない。


 単に政府や国の危ない仕事をやるだけじゃなくて、時空を超えた任務とかもあるようで、わたしが昔の宮之森に通えるのも、そういうMSの技で、大っぴらにできることじゃないんだろう。


「じゃ、式神貸してよ。離任式で酔っ払った時、お祖母ちゃん背負って送ってくれたイケメンとかさ」


「引退したMSが、そんなの使えないよ」


「ち」


「女の子が舌打ちなんかするんじゃありません」


「だってぇ」


「じゃ、わたしのキャリーバッグ貸してやろう」


「ええ……あのババキャリー(=△=)」




 というわけで、軽くて頑丈なだけが取り柄の婆さんキャリーを引いて学校に行くことになった。




 花のJK(まだ入学式もやってないけど)のババキャリーって目立つんだよ、みんなチラチラ見てるし。


 仕方がないので、駅二つ分だし、外の景色を見てる。


 やっぱ半世紀以上昔の街なんで、高い建物が少なくて、民家も、せいぜい瓦屋根の二階建て。三階建て以上はみんな鉄筋コンクリート。走ってる車は令和とあんまり変わらない。っていうか、車の事なんか分からないんだけど……え、三輪自動車? 小さいのはごくごくたまに「何年動かしてねーんだ!」的状態で放置してあるけど、いま、電車と並行の道を走ってるのは普通のトラックなのに三輪。バイクやスクーターとかも走ってるけど、原チャでなくてカブ? そんなやつ。で、違和感ありありなのが、みんなノーヘル。衝突とか転倒したら、ぜったい頭打って、血がドバドバ出て死んじゃうよ。


 女の人、ミニスカ多すぎ。それも、タイトで膝上って云うより股下何センチってしろもの。痴漢増えそう。


 え、なんだあれ?


 茶筒型の大きなタンクが檻に閉じ込められてる。檻はタンクよりも高くて、ちょっとやそっとでは逃げられません的。


 タンクのてっぺんは微妙に膨らんでいて―― 今に見ていろ、ぜったい逃げてやる! ――的な、なにか芸術のオブジェ? それとも宗教施設?


 何か足りない……あ、宮之森城が見えない! いや、無い!


 そうか、社会見学に行った時「これは復興天守と言って……」と先生が言ってたっけ……まだ復興されてないんだ。


 この時代のランドマークは宮之森城じゃなくて『囚われのタンク』なんだ。




 二駅だけのサイトシーングはあっという間に終わって学校へ。


 キョロキョロしていては送れるし、人目も気になるのでサッサと早歩き、前の半分くらいの時間で正門を潜る。



「うわあ、それってスチュワーデスのキャリーバッグじゃないですか(◎△◎)!」



 見覚えのある女子が突撃してきた!


  


☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女


 


 

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