第5話『1970年のこんにちは』

巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記


005『1970年のこんにちは』   





 ガックン……ガックン……ガックン、もひとつオマケにガックン。



 ガックンを数回やって電車は宮之森駅についた。


 運転手がヘタッピーなのか、電車がポンコツなのか、はたまた、その両方なのか、ガックンガックンしながら停車した。


 二回目の停車なので慣れたって言えば慣れたけど、ちょっと不愉快。微妙に足を突っ張ってショックをいなす。


 ほかの乗客は平気な顔してるから、まあ、1970年代の電車って、みんなこうなんだろうね。




 降りた宮之森駅は、やっぱり平場の駅。


 電車を降りて、すぐに改札が見えるって、なんだか田舎っぽい。


 改札の駅員は、やっぱ不愛想で「ご乗車ありがとうございました」の一言もない。


 ちょっと(ꐦ°᷄д°᷅)! ビク(◎o◎)!


 駅員が呼び止めた……と思ったら、後ろの男子。


 料金が10円足りないとかで糾弾されてる……「うい」……男子は、他の人の邪魔にならないようにして、10円玉を出すと、改札のステンレスの縁のとこにピシャンと置いて、わたしのことをジャマ!って感じで避けながら行ってしまう。


 おっかねえ。


 自動改札に通せんぼされるのもムカつくけど、あんな風に糾弾されたら、一か月は立ち直れないかも(-_-;)。



 チャンチャンチャッチャラチャンチャン♪ チャチャチャチャ~ン♪



 陽気な軍艦マーチ! ここへきて右翼の街宣車かと思ったらパチンコ屋!


 ドアが開いて、不景気そうなオッサンが店から出てくるところ。軍艦マーチの裏にはチーンジャラジャラと分かりやすいエフェクトも入っていてパチンコ屋丸出し。


 ネオンサインとかノボリだとかのディスプレーも、エレクトリカルパレードかっちゅうくらいにド派手!


 こんなとこにパチンコ屋あったけ?


 願書持ってく時と、今朝の合格発表と、さっきの合格者説明会の時に、ここを通ったけど……スーパーだったんじゃ……ワ、自転車だらけ!


 駅前は放置自転車でいっぱい!


 四車線の道路が二車線しか通れないんですけど……交通監視員のオジサンも居なければ、お巡りさんも居ない。


 え、信号機のとこにゴミ箱と灰皿!? それも、どっちも満杯だし!


 たばこクサ~イ……街の中で鼻をつまむわけもいかず、ちょうど青になったのを幸いに横断歩道を渡る。


 渡ったところに交番、令和の時代と違って『KOBAN』の文字は無い。あれは普通に読んだら『小判』だもんね。なんか子どもじみてるし。木の看板に『宮之森駅前派出所』とあって、わたし的にはグッド。


 でも、中にお巡りさんの姿はない。貼ってある警察官募集のポスターのお巡りさんは、ドラマとかでしか見たことない制服。自衛隊の制服を紺色にしてベルト締めましたっ!的。


 学校に着くまでは、まず商店街を抜ける……さっきよりもお店が多い。


 お祖母ちゃんと来たときも同じ商店街なんだけど、こんなにお店は開いて無かった。


 

 こんにちは~こんにちは~西ぃの国から~♪ こんにちは~こんにちは~東のぉ国から~(^^♪



 ちょっとダサイけど、ご陽気な演歌っぽい歌がアーケードの中から聞こえてくる。


 なんだ、このこんにちはの大安売りは?


 1970年のこんにちは~(^^♪



 あ、あああああ、そうだ! そうだよ!! 1970てば、万博があった年だ!!


 そうだよ、あの伝説の日本万国博がリアルで見られる年だよ!


 細々と凹むこと見てきたけど、こいつはラッキーかも!



 こんにちは~こんにちは~ 握手をしよ~お(^^♪



 気が付いたら、何年かぶりでスキップなんかしてしまって、ちょっと恥ずかしかった(^_^;)



 ちょうどお昼時なので商店街を出るまで、あちこちから美味しそうな匂い。


 食べ物屋さんも、さっきよりずっと多い。でも、マックもケンタも吉牛も無い。


 おお、今川焼のいい匂い! ちかごろ今川焼は大きなショッピングモールとかに行かなきゃお目に掛かれない。


 

 で、一個20円(⊙ꇴ⊙)!



 この時代は消費税とかも無いから、100円で五個買える! 帰りに買って帰ろう!


 一個だけでも買って食べたかったけど、合格者説明会なんだ。がまんがまん。


 ここで曲がって学校への道というところに、なんと映画館!


 昔は、商店街に映画館は付き物だったらしいけど、リアル『街の映画館』だよ。


『ブラボー若大将』と『男はつらいよ フーテンの寅』の二本立てだって……加山雄三も寅さんも、めっちゃ若い!


 路地を挟んで、もう一つ映画館……『おさな妻』……Z指定?



 映画館を尻目にアーケードを出る。ちょっとお日様が眩しい。



 あれ?


 電線がおかしい……なんかサッパリしてる……あ、光ファイバーの線が無いんだ。


 電線に並んで、グルグルの螺旋のところに何本も通ってる黒いケーブル。


 そうか、ここは完全無欠のデジタル世界なんだ。


 見れば、タバコ屋の公衆電話も伝説の赤電話! 郵便ポストもトトロの世界かっていうような円筒形!


 ここから学校までは、おおむね住宅街。


 ム……家の前にゴミ箱がある。


 水色のバケツに蓋が付いたようなのが多いんだけど、中には、木製やらコンクリートのもチラホラ。


 まあ、みんな蓋があるしゴミ袋よりはうんと頑丈そうだから、ハトやカラスにやられることはないんだろうけど、清掃局の人は大変じゃない?


 いちいち、ゴミ箱開けるの? それとも回収の日に出すのかなあ?


 

 学校が見えてきた。



 体育館は古い一階建てだけど、他の校舎は、さっき見たのといっしょ。ソテツや桜とか、植栽は大きくなってない。


 梅は、まだほんの蕾。やっぱ、令和は、ちょっと温暖化?


 さて。


 しまった! 合格者説明会って保護者同伴だよ!


 


☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

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