第6話『二度目の合格者説明会』
巡(めぐり)・型落ち魔法少女の通学日記
006『二度目の合格者説明会』
「しっかり聞いて、しっかりメモを取ってくれればいいよ」
受付の先生に正直に言うと、そう指示されて受験番号の振ってあるパイプ椅子に腰かける。
見ると、わたしの他にも保護者同伴ではない子がチラホラ居て、ちょっと安心。
ホッとすると直ぐにスマホを出してしまう。
―― 保護者同伴でなくても大丈夫だったけど、マジ、ビビったよ(;'∀') ――
お祖母ちゃんにライン打ってスクロール……よし、とりあえず未読はない。
習慣で天気予報をチェックして、Yahooニュースをチラ見……ヤバイ!
1970年にスマホは無いんだ!
まあ、この時代の人には手鏡にしか見えないようになってる。この時代でもスマホを使えるようにしてくれているんだけど、ちょっと用心しなくっちゃねえ。
落ち着いてスマホを仕舞った手で、資料の入った袋を開ける。
ホーーー
五十三年前でも中身は変わらない。
ひょっとしたらね、伝説のガリ刷りじゃないかと期待したのよ。
小さいころに、古い荷物整理してたら黄ばんだ更紙に手書きっぽい字の文集やらプリントやら出てきて、お祖母ちゃんに見せたら「あ、わたしのだ!」と喜んでた。
お祖母ちゃんは文芸部で、年に二三回、ガリ刷りで文集を出していたんだって。ま、同人誌的なものらしい。
何か温かみがあって、だから、ちょっと期待したんだけど、ちゃんとした活字の印刷物。
ん?
ちょっと雑なのがある。入学者案内は活字なんだけど、選択教科の説明プリントはフォントが貧相というか雑。微妙に傾いてるのやらあるしね。
制服の案内は……へたくそなイラスト。アニメのラフみたいというか作画崩壊というか、そういうレベルの男女の制服姿。
でも、しっかり、私好みの昔の制服だよ。
リボンじゃなくてボータイだし、ジャンスカ風のチョッキの部分、仕組みと着脱方法も書いてあってナルホドだ。
袋を覗くと、B5サイズの正誤表。これがガリ刷り!
オフホワイトの紙に青インクのカクカク文字で、いい雰囲気。
ピーーーーーーーーン!!
クラブ紹介の冊子を見ようとしたら、すごいハウリングの音。
おまけにボコボコ音をさせて! オッサンがマイク叩いてるし!
「アーアー、お待たせしました、ただいまより、昭和四十五年度の合格者説明会を始めます」
市役所の窓口に居ますって感じのおじさん……教頭先生が説明を始める。
中身は、令和5年の説明会で聞いたのとほとんど同じ。
ただね、学校のホームページとかの説明は無し。まあ、ネットが無いから当然なんだけど、微妙に『なんか忘れてます感』が残る。
「各種書類や証明書に貼る個人写真が必要ですが、これは制服が出来た後に、制服着用のうえ、指定の写真館……ええと、案内8ページにあります、三つの写真館のいずれかでお撮りいただき、入学者説明会の日に持参してください。他の写真館で撮って頂いても構いませんが、指定の写真館よりも割高になります……」
え、自分で撮りに行くの?
写真なんて、ほんのこないだの中学までは写真屋さんが学校に来て撮ってくれてた。
写真館とかで写真とか撮ったことないし。普通だったら、友だち同士で撮りに行ったりするんだろうけど、この時代に友だちなんかいないし。
よし、プリントに地図も載ってるし、駅前商店街の写真館、見て帰ろう。
ということで、説明会のあと、令和ではパスした制服の採寸をやってもらって正門に向かう。
ドスン!
いきなり斜め後ろからぶつかられてこけそうになる。
「「キャ!」」
「ごめんなさい!」
知らない中学の制服、すぐに、こっち向いて謝ってくれる。
「えと……みんな何してるの?」
その子を含めて数人の子が空を眺めてる。見渡すと、同じように同じ方向を見上げている人たちがいる。
合格者や在校生、中には、先生や制服の業者の人たちまで。正門の外でも空を見上げてる人が居る。
「あ、もうじきジャンボが、この上を飛ぶんですよ(^_^;)」
「ジャンボ?」
「ジャンボジェット! 体験飛行で東京の上グルって飛ぶんですって」
ものは付き合いなので、いっしょに空を見上げる。
クチュン!
まぶしいんだろう、可愛いクシャミをする。
ゴーーーー
やがて南の方から音がして、珍しくも無いジェット機が飛んでくる。
おお…… 大きい…… うわあ…… 素てきぃ…… かっこいい…… 乗ってみたいぃ……
真上を通って、姿が見えなくなるまで見上げている人たち。
ジャンボジェットよりも、感動している人たちが新鮮で、ちょっと校舎の裏に行ってググってみる。
……なるほど、初めて日本に来たんだ。
え?
もっとびっくりしたのは、令和ではジャンボがとっくに退役して引退してること。
でも、新幹線の旧型が引退するようなもので、特別にファンでなければ興味ないよねえ。
フフ( ´艸`)
でも、古い制服に憧れて50年以上前の高校に通おうっていうんだ。こっちの方が、よっぽど変わり者なのかもね。
帰りは、商店街で写真館の場所を確認して帰った。
たかが証明写真撮るのに入るのは、ちょっと億劫だなあと思った。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
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