第4話『橋を渡る』
巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記
004『橋を渡る』
一歩踏み込むと、周囲の景色が無くなって、今渡っている戻り橋と、左右に伸びている寿川の流れが見えるだけだ。
VRゲームのチュートリアルみたいだ。R3のスティックを押し込むと、リングが現れて、そこにジャンプできるみたいな。
リングは現れないし、手にリモコン持ってるわけじゃないので、そのまま歩く。
ゴーーーーーー
すごい勢いで川が流れる。ちょっとビビる。
ダムが全力で放流してる、その真上を歩いてるみたいだ。
それに、川の流れが逆だ。川下から川上に流れている…………そうか、これは時間が逆廻しになってるってエフェクトなんだ。
エフェクトならビビることはない。
渡り切ると橋は消えて、コンクリのところにGのしるしがあるのを確認して、川沿いを南に進む。
道は令和のころと大きな違いはない。
歩道の幅が狭くて黄色のブロックが無い。
交差点に来ると、信号機がイカツイ。白地に緑の縞模様、でもって赤青黄の信号が暗い。信号と言うよりは、お化け屋敷のランプみたく毒々しい。
ゲ!
青に変わって踏み出したら、ガクンと体が沈み込んでカエルみたいな声が出てしまう。
なんで、段差が!?
交差点の歩道って、車道との段差なんか無いものでしょ! 段差なんかあったら、自転車とか車いすとか通れないじゃん!
だれか笑った。
わたしと同じ制服の生徒が、二人連れで笑いをこらえながら追い越していく。
そうか、中学の制服は変わってないんだ。少しホッとする。
コンビニが無かったり、ソフトバンクが見当たらなかったりするんだけど、街の様子は、そんなに変わっていない。
っていうか、自分が利用する店とか以外は変わってても分からないのかもしれないけどね。
駅が…………変わってるぅ……っていうか高架じゃないんですけど。
いつもなら、エスカレーターで改札のフロアーまで上がるんだけど、入ってすぐのところが広くて、古い券売機が並んでて、なぜか黒板がある。
『伝言板』と書いてあって、反対側の端っこには『六時間経ったものは消します』とある。
―― 先に行く K ――
―― 明日も待ってる めぐみ ――
―― 喫茶ルイで10時まで待ってる T ――
―― 晩ご飯買って来て 裕子、母 ――
リアル伝言板、興味深い。あ、読んでる場合じゃない。
切符を買う。
スイカで行ければいいんだけど、さすがに1970年では使えない。
え、30円!
ちょっと得した気分、さっきお祖母ちゃんと行った時は150円だった。それが、たったの30円!
さっそく財布を開ける(例のガマグチ)。
おお!
ちゃんと昔のお金になってる。千円札はヒゲのオッサン。
青くて顔色の悪いお札は五百円。五百円のくせにお札とは生意気な! で、この人相の悪いオヤジは岩倉……グシ?
コインは令和と同じだから、ちょっと安心。
チャリンチャリンチャリン。十円玉三つ投入。
ンガーー!
なんだ、この音!?
微妙に遅い、でも出てきた。
あ!?
なんちゅうこと! インクが手に付くんですけど!
見ると、後から買った女の人は、器用に切符の端を指で挟んで持ってった。
ひょっとして、券売機の中で印刷してんの? ありえないんですけど!
ティッシュで拭くのもムカつくので、切符の裏にこすりつける。
あれ? 切符の裏が真っ白。ふつう、黒とかこげ茶色じゃない? なんか、こすり付けたインクが目立つし。
カチャカチャ カチャカチャ
改札に向かうと、制帽を目深にかぶった駅員のニイチャン、鋏をチャカチャカいわせて機嫌悪そう。
切符でインク拭いたの見てたのかなあ……。
プイ
目にもとまらぬ早業で切符をふんだくると―― オレ見てたからなぁ ――的な不機嫌さで切り込み入れて、呆気に取られて閉じたままの指の隙間に切符を滑り込ませる。
で、無言だよ。
ふつう、この距離でお客さんに接したら「ありがとうございます」の一言ぐらいあるよね。せめて「はい」ぐらい言ってよね。
プリプリしてホームに上がると、やっぱり黄色の点字ブロックは無い。で、ホームゲートも無い!
乗客のみなさんは、ホームの際際のところに立って、怖くないんだろうか(^_^;)
電車がやって来て着メロが無いのは、微妙に違和感。まあ、駅員さんが元気にホイッスル。すぐそばだったので、ちょっと耳に響く。
電車は、令和とそんなに変わらない。シートが地味かなあと思ったぐらい。
『発車しま~す、ドア付近のお客さまはお気をつけくださ~い』
車掌さんが生声で言ってくれるのは好感。
でも、車掌さんて、なんで、女っぽい喋り方するんだろう。
ガックン!
のわ!
いきなりONになりました的に発車して、こけそうになる。
そのあとも、増速するたびにガクンガクン。
ちょっと、ひどくない、この運転!?
たった二駅だけど、新鮮な発見やら驚きやらあって、五分後には無事に宮之森駅に着いた。
☆彡 主な登場人物
時司 巡(ときつかさ めぐり) 高校一年生
時司 応(こたえ) 巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女
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