第3話『ええ! 1970年!?』

巡(めぐり) 型落ち魔法少女の通学日記


003『ええ! 1970年!?』   





 しまった!



 杖を振ろ下ろしたお祖母ちゃんは、目と口をまん丸にして固まった。


「ええ! 1970年!?」


 わたしも、お祖母ちゃんの倍ほど目を丸くして固まってしまう。


 旧制服ということだけが条件だったから、数年遡るだけで十分。


 それが、仮想インタフェイスに出た年代は半世紀以上も昔の1970年・昭和45年!


 お母さんでさえ生まれていない大昔だよ!




 どうするぅ?




「ま……これでいいよ」


 気軽に返事したのは、時間遡行魔法というのはずいぶんと力を使うから。


 最近血圧と血糖値高めのお祖母ちゃんに無理は言えない。


 それに「十年くらい前がいいかなあ(^_^;)」なんて注文を付けたのはわたしだ。


 一二年前くらいだったら、学校とかご近所の知り合いがいる。まあ、亜世界だから、全て同じ人間じゃないらしいけど。四人に一人はうちの中学から行ってるから、絶対に知り合いがいる。三つ上に女ジャイアンみたいなのが居る。こいつ、見かけよりは勉強できて宮之森に進学してる。こういうのとはいっしょになりたくない。


 だから「ま……これでいいよ」にしておく。


 三年ずっと昔に居続けはヤだけど、放課後になったら今の時代に戻れるしね。




「スマホは手鏡に擬態させてあるけど、あんまり人前では使わないでね」


「え、スマホ使えんの!?」


「うん、MG仕様だから普通に使える」


「NG?」


「MG、Magical Girl」


「ああ、英語で魔法少女。いいじゃん(^▽^)」


「お金も、このお財布に入っていれば1970年当時のお金になるからね。教科書代とか制服代は、必ず、このお財布に入れてから支払うんだよ。型落ちだけど、機能は変わらないから」


「え、がま口!?」


 それはサザエさんのお母さん(フネさんだっけ)が持っていそうな古典的な、それこそガマガエルの口に川の袋が付いたようなやつ。


「昔の魔法少女がタイムリープするときに使った奴だからねぇ」


「アハハ、まあいいや……あれ、変わらないよ?」


 さっそく、いまの財布から移し替えたけど、千円札は相変わらず野口英世のまま。


「橋を渡らなきゃ昔のお金に変わらないから」


「うん、分かった」


 回れ右して歩き出したら呼び止められた。


「そっちじゃないわよ」


「え、だって、橋は向こう……」


「こっちこっち」


 お祖母ちゃんは、家の筋向いの川辺を指さす。


「え、ここ?」


「ここにMが見えるだろ」


「え……ああ」


 護岸のコンクリのところに、うっすらとMの掘り込み。


「この50センチ以内に近づくと橋が現れる……ちょっと、まだよ!」


「ごめん」


「向こう側にはGが彫ってある。帰る時は、そこからね」


「うん」


「くれぐれも、人に見られないようにね」


「見られたらどうなるの?」


「写真に撮られてSNSに投稿される」


「ああ、それはヤバイよね(^_^;)。向こうで見られたら?」


「鬼太郎の友だちだと思われるだろうね」


 ああ……わたしって、目が大きくって、微妙につり上がってるから猫娘に間違われるかもぉ。


「いろいろ珍しいだろうけど、寄り道なんかしないで帰って来るのよ」


「うん、任しといて!」


「よし、今だ!」


 

 ポンと背中を押されて前に踏み出すと、目の前に橋が現れた。


 田舎の川に掛かっていそうな、軽自動車がやっと渡れます的な古びたコンクリートの橋。


 橋の右には『寿川』左側には『戻り橋』と字が彫り込んであった。




☆彡 主な登場人物


時司 巡(ときつかさ めぐり)   高校一年生

時司 応(こたえ)         巡の祖母 定年退職後の再任用も終わった魔法少女

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