第7話 違和感

 光が閉じられた瞼に当たり、意識が夢の深海から引き戻された。


「………う…ん…?」


 肌触りのいい軽い掛け布団と肌触りのよいカバー。

 ぼんやりとする頭だが、後頭部は鈍痛を訴える。


「……痛い…」


 ぼんやりした頭で、自分の置かれている状況を整理してみようと試みた。

 まず、昨晩鈍器で後頭部を殴られた。頭ぱっくりで出血。撲殺された。

 次に犯人は逃走。その後起き上がって神殿に帰る。

 布団の上で起き上がって状況整理中。


 セリカがはっとする。

 うん。私の部屋じゃない。

 ベッドのお布団がが所々赤黒くなってる……。

 お布団、弁償にいくらかかるんだろう………。

 踏んだり蹴ったり過ぎる…。


 セリカはそろり、と布団を抜け出し自分の出で立ちを再度確認してみる。


『わぁ…長衣が血で染まってるー。遠慮なくどばどば染まってる…』


 うん。

 お風呂かな。


──あっ…。


 グラリ。と目の前が暗くなりよろけ、そのまま床に倒れ落ちた。

 失血した量が多くまだ回復できていない。そしてダメージが大きすぎてまだを動かすことも儘ならない。


『…でも強制的に少し動かさないと、頭が酸欠起こしますねー』


 セリカは、自分の心臓がある部分を指先で触れる──冷たさが指に伝わる。

 指先に意識を集中し──歯車がゆっくりゆっくり動き出すイメージで魔力を紡ぐ……。


──とくん………とくん………。


 動きが止まり冷えきったはずのセリカの心臓が動き出す。

 ゆっくり、ゆっくりと一定のリズムで鼓動を刻む。






 部屋の扉が軽くノックした後、ガチャリと開く。

 部屋の主──イストの顔が見えた。


「おーい…派手な音したが……何で床にへたりこんでるんだ?」

「…すみません。ベッド占拠した上、血で凄いことに…」

「それは別にどうでもいいんだが…」


──…ん?


 イストが引っ掛かりを覚えた。

 ほんの僅かな──違和感。

 何が、とは言えないが確実に引っ掛かる。


──杞憂、ならばいいんだが。


『…あっれ?』


 セリカの頭部の傷やら、どこかで付けてきたであろう細かい傷が癒えていない事に気がついた。

 

「傷治してないのか?」


 魔力も高く、治癒魔法使い放題の聖女…何故傷をそのままにする?


「……自分にかけられない…デス。」


 消え入りそうな小声で、俯きつつセリカが答える。


「………は?」


 いや待て。自分に掛けられん…だと?


「……オレが掛けるべきか?」

「やめときます」

「……痛くねぇの?」


 以外と痛みが長引くのを悦んでいるのだろうか……?

 あらぬ考えがイストの頭をよぎる──がセリカに見抜かれてしまった。


「……違いますよ?」


 ジト目でセリカがイストを睨む。


「自分にはまず発動しないんです。私の治癒魔法」


 セリカは一度会話を切り、自嘲気味に続けた。


「生きてるんだか分からない身体の怪我に下手に治癒魔法掛けて、アンデッドよろしく治らない上に苦痛だけ長引いたら嫌じゃないですか。やだー」


 明らかにセリカの様子がおかしい──イストは内心、冷たい氷水を背筋に流された感じがしていた。

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