第8話 薬効成分と…?
ちゃぽん……。
浴室に水音が反響する。
ラベンダーの香りが鼻孔をくすぐる。
治癒魔法が使えれば良いのだが、セリカの現状どう作用するか判らず──傷の修復作用のあるラベンダーの薬湯が用意された。
ラベンダーは傷に有効の他にもリラックス効果があるが……。
『…しかもトゥルーラベンダーとか高いのにー』
…外科用ポーションにすれば売れるのに……。とセリカがふと思う。
ポーションなどは比較的良い値段で取引してもらえるのである。
ポーション類は神殿の貴重な現金収入源となっている。
神殿や教会は権力からの独立のため、基本は寄付金にて運営されている──が孤児院の運営等もあるため寄付金だけでは十分には賄いきれないのが現状だ。副収入としてポーション販売やとあるギルドを運営し神官や司祭やらがローテーションで
セリカが王子と婚約話に承諾した最大の理由は神殿の諸般の懐事情を鑑みてである──他にも個人的な
ちゃぽん………。
セリカは浴室の天井を見上げる。
殺気立つ神殿内の雰囲気は殺伐としている。
『まぁ、色々と穏便に行かないでしょうねー』
──血の気が多いのが多すぎですよねー……。
誰が筆頭と言えば、一番偉いおっさんが見た目に反して脳筋…である。
聖職者の総本山なのに修行内容の大半が武器修練やら戦闘訓練である。肝心の聖職者特有の魔法は出稼ぎ中にやる始末。
『話など無視して
冒険者ギルドでは都市近郊での薬草採取以外の依頼には、治癒魔法が使える者の随行を義務としている──旧体制下だった頃、治癒魔法を使える者が極僅かかつ費用が高額で雇えず、全滅したパーティーが後を絶たなかった。新体制に移行した後は聖職者が冒険者ギルドへの登録が認められた。無論雇用料金はパーティーで無理なく雇用できる金額である──ランクにも依るのだが。
『…普通、
ご丁寧に別名義使って。
尚、
イストが大陸で一・二を争う剣士とか、冒険者ギルドに登録して初めて知った事実である。おっさん職業間違えたのでは?とセリカは時々思う。
ちゃぽん…ちゃぽん………。
セリカが昨晩腕についた傷を確認する──ざっくりと深い裂傷が塞がり、淡いピンク色の新しい肉がうっすらと盛り上がっている。
──薬湯にしては効果が速すぎる。
「…っ!お風呂にポーション入れるとか!とゆーか何本突っ込んだのよ!」
セリカの声が浴室に反響する。
もったいないことこの上ないではないか。
どんだけざっくり切られようが、セリカは戻ってくるのだ。それこそ心臓をメッタ刺しされようが修復を始める。まぁ流石に灰になるまで燃やされたり、細切れにされたら修復に恐ろしく時間はかかるだろうが──それでも魂と意識が身体を離れることはない。
「無駄遣いはんたーい…」
方々から「気にするな!」と言われるのだろうが、それがこそばゆいのだ。生者だか死者だかよく解らないものを迫害されずに神殿においてもらえるだけで有り難いのに、皆に良くして貰える。普通に接して貰える。それがとても嬉しかった。
「……よしっ!」
慰謝料と示談金ふんだくってやろう。
固くセリカが誓う。
『地獄の沙汰も金次第……』
セリカ本人は認めたくないが、座右の銘が誰かと同じなのである。
自分自身の為でなく、神殿の為を思ってやっているところまで師弟で同じなのであった。
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