第5話 傲慢と、返り血
──時間が少し遡る
勢い余って少女を花瓶で殴り倒し、床に崩れ落ちたあと──逃走をした。
殴るつもりはなかった。
殺すつもりはなかった。
こちらを値踏みするような目は確かに気に入らなかった──がそんなつもりは無かった。
アレを殺したら後ろ楯が無くなる!
俺が、王太子から遠退くではないか!
いや何故、あの娘を妃にしなければならない!俺の妃は上級貴族の娘こそ相応しい!
アレでなくても、貴族の後ろ楯さえあれば構わないはずだ!
幾ら聖女とはいえ平民などあり得ない!
俺は高貴な生まれなんだよ!
アレさえいなければ……!
俺は何も悪くない!
『…そうよ、あなたは何も悪くない』
自分の内なる声なのか別のものなのか判らない──甘く耳元で囁く声に己を肯定され気分が非常に高揚していた。
王都にある隠れ屋敷から、ひたすら走った。
障害が取り除かれ、晴れ晴れとした気分だった。
ここ数年燻ってた気持ちがアレが消えたことですっきり晴れたのだ。
これ以上ない良い気分だ!
身体に返り血をびっしょり浴びていることすら気もつかずに。
どれだけ走っただろうか……?
自分が居を構える離宮の近く──自分を見た者が悲鳴をあげた。
──ちっ…うるせーんだよ…。
アイツ等に構ってる暇はない。
穢らわしい血を洗い流したいんだよ。
俺の行く手を塞ぐがごとく──王宮警備隊の兵士が行く手を阻んだ。
「…殿下、ご同行願います」
俺の腕を数人で掴みに来る──振り払うが投網を上から被された。
「っ!?何をする!お前等まとめて処分してやるぞ!」
「…ご同行、願います」
──斯くして俺は、不当に拘束された。
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