第4話 訪問者

 大神官応接室の扉がゆっくりと3回ノックされる。

 本日は来客予定どころではない。

 ヴィオスが来客を断ろうと扉を開けると、ある意味頭の痛い者がいた。


「………親父殿何しに来たっていうか、きちんと人間にして下さい」

「細けぇ事言うなよ。神殿ここに気にするやついないだろ?」


 ヴィオスに『親父殿』と呼ばれた、ヴィオスよりも鮮やかな深紅の髪と瞳を持つ人物──ガゼールという──は人間とは少々異なる風貌だった。耳はエルフほど長くはないが人のものではなく少々上部が鋭角に尖っている。そして深紅の瞳の瞳孔は爬虫類を思わせるような、縦に長いものだった。


神殿ここにはいなくても、一般人に見られると不味いんです」

「よぅガゼール。取り込み中で相手出来ないぞ」

「猊下久しぶりですね。取り込み中なのは魔王城うちの方に伝令来たので把握しましたが……」


 イストがヴィオスを見る──その視線に気がついたのかヴィオスはあらぬ方向へ視線を逸らした。


「……面倒臭い所に間違えて伝令送ったな」


 思わずイストがため息を漏らした。






 取り込み中である。

 しかしこちらの手違いがあったので、わざわざ事情を確認しに来たガゼール魔王の側近を追い返すわけにもいかず──相手をソファーに促した。

 公にはできないが数百年に渡り神殿と交流がある種族魔族である。


「ガゼール、暫くお前の嫁元、初代聖女神殿に戻さないか?」

「却下です。シルビアは帰しません」

「…ちっ」


 提案を速攻で却下され、横を向き舌打ちする大神官イスト


「…黒の非常事態通知って『武装通達』だった様な気がしますが」


 イストはガゼールの顔を見たまま言葉を発しない。


「戦争でも起こす気ですか?猊下」

「……自分から起こす訳じゃねぇ。売られた喧嘩を買い上げて利子割り増しして叩き返すだけだぞ」

「…親父殿、魔族そちらが首突っ込むと収拾しなくなりますんでなるべくですね……」


 もう穏便に行かない無駄な努力であろうが、なるべく穏便な方向に持っていこうとしたいヴィオスが、自分の父に釘を刺そうとする。


「…なんで貴方が大神官なんでしょうね……神がトチ狂ったとしか思えませんよ。…むしろ魔族側こちらに近いですよね狂気の魔法剣士凶悪の勇者?」

「その名前で呼ぶんじゃねぇよガゼール」


 聞いてはいけないものを聞いてしまった様な気がヴィオスはしていた。

 数百年前の伝説の魔法剣士が……自分の目の前に…いた。


「…まぁある意味で正しいんだよな」


 イストの微かな呟きは、誰も耳に拾えなかった。

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