第3話 事情聴取

「…それで第1王子に殺られちゃったと?無抵抗に一方的に、背後から?」

 

 抵抗する間も無く重くごつい花瓶で殴られた訳であるが──身も蓋もない言い方をする大神官付き秘書官──ヴィオス・アルファード。燃えるような赤い髪の一見インテリに見える年齢不詳者は非常に容赦ない性格をしている。


「ソウデス」

「えーっと…自分から見て可愛げがないからと重い花瓶で殴り付けて撲殺ですか……」

「……どう見ても神殿への宣戦布告だなこれ」


 大神官イスト・アルテッツァが不穏な言葉を口にする。いつもなら止めそうな秘書官の目が据わっている──止める気がないようだ。


「ヴィオ、全教会へ黒の非常事態通知を急ぎで出せ」

「承りました!」


 の通達は武装通達である。

 ヴィオスは通達の準備をするために部屋を出る。

 部屋にはセリカとイストが残され、ローテーブルを挟んで向かい合わせになっている。


「さて、セリカ。オレが子供の頃から教えてることを憶えているか?」

「ハイ…」

「言ってみろ」

「目には目を、歯には歯を、仇には仇を。受けた恩は倍に、受けた仇は万倍に…」


『これ、大神官聖職者の言うことじゃないよね…?』


 思っているけども、イストが激怒してるのが判るので言うに言えず。更に言えば、その原因がセリカ自身である。


「解っていればいい。…まだしきってないだろう?奥の部屋で寝てろ」

「お…奥って、大神官さまの部屋じゃないですか!」

「他のに見られると不味いからな…あぁその長衣は棄てるなよ?」


 さっさと寝ておけと部屋に押し込まれる。

 上質な寝具が血で汚れそうである……が、失血が多すぎて眠さに勝てなかったセリカは好意は遠慮せず受けることにした。






「猊下、転移門使って非常事態通知出しました」


 ヴィオスが大陸中にある教会に向けて使者を出したことを報告するために戻ってきた。

 ターレスト大陸中に一斉に使者を出すのに転移門を使用したことは事後承諾になったが、イストは咎めることはなかった。


「神殿兵に王城からの使者は取り次がない様に通達をついでに出しておきました」

 

 仕事が出来る秘書官である。普段は仕事が出来すぎて、イスト自身の首が絞まるのだが、王城の首が絞まる分には問題ない。


「…オレの可愛いセリカに何しやがるんだ、あのクズ王子」

「……色々聞かれると語弊があるのでやめてください猊下」


 イストの言わんとする事は解る──が、物には言い方と時期がある。

 神殿内でのセリカへの大神官の溺愛っぷりは有名なのだが、余り本人セリカは気が付いていないようだった。

 神殿ではを時に生暖かく、時に観察対象として見られていることに当事者達は気がついていない。


 セリカが大神官だけでなく、神殿にいるもの達から熱烈溺愛されていることには不幸にも知らなかったのだった。

 


 


 

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