ある鯉のひとりごと

Tempp @ぷかぷか

第1話

 なあ聞いて?

 転生したら鯉だったん。何を言っているのかわからないかもしれんけど、俺も意味がわからない。

 ともあれ気がついた時は卵のなかで、殻をぽちぽち食い破ってさあ大海原だと思ったら、やたら広いビクの中だった。よく考えたら鯉は淡水魚だから大海原はないよな。

 そんなわけで転生して生まれ直した瞬間絶望した。


 とはいえ日常は過ぎゆくんだ。遥か天空から降り注がれるペレット鯉のエサ的なものに近寄ってぱくーぱくーと呑気に食べる。気楽な生活だと思うだろ?

 だが鯉は雑食で頭がいまいちだから、1番の恐怖は同じビクにいる兄弟たちなんだよな。だから俺は人間的にかしこい(多分)頭で効率的に餌が流れ落ちる時間とスポットを計算して、誰よりも速く餌をゲットしてアウェイして、あとは兄弟たちから逃げ回って素早さを鍛えるという生活を送っていた。

 いつかこの素早さが冒険者になるときに役に立つのではと思いつつ、どうやって冒険者登録するのさとボヤく毎日だった。


 それでね、俺は考えないようにしていたんですよなるべく。ここがビクってことはさ、空から飯が降ってくるってことはさ、つまり何かに養殖されてるってことじゃん。

 そうだよ、その日は来てしまったの。

 十分育った俺氏は雑に網に釣り上げられて、ぴちぴちしたまま怪しげな男に買われたようだ。

 俺、食われるんやろうか。

 そう思ってそいつの家のでかい金魚鉢にビクビクしていたら、なんだかその男は怪しげなマントを羽織りだしてさ、よくわからんけど素焼きのでっかい壺? カメ? みたいなのに怪しい薬品的なものをがちゃがちゃぶち込んで、でかいヘラでかき混ぜるの。公園の池のボート乗り場のパドルみたいな奴。その所業はまさに闇の魔術師。闇落ちしてる、いろんな意味で。なんか怪しい呪文唱えてるしさ! 言語わかんないから普通の言葉なのかもしれないけど!?

 これ、俺、食われるのともちょっと違うよね。あの液、ちょっと食べれる雰囲気じゃないもん。コポコポしてる。むしろ生贄!? 嫌だぁ! いままでずっとビクの中で初めてでた外界で最初で最後にみるもんが怪しい男と謎の壺とか! 無双は!? 俺のチートは!?


 だが俺は所詮鯉だ。でかい金魚鉢にうっすら反射する自分の姿をみて確信したけど、赤と白の錦鯉だ! ぴちぴちはねて必死に抵抗しても、網ですくわれて怪しげな壺にどぼんよ。


 ぎゃああああああーーーー


 その瞬間、俺の口から悲鳴がほとばしった。

 熱いとかじゃなくてさ。なんかおぞましい感じっていうか呪いのお湯みたいなのに浸かってめっちゃ気持ち悪かったわけ! わかる!? この気持ち悪さ! わかんないよね!?


 でさ、もう無理だと思って俺はぴちぴち暴れたの。そりゃあもうぴちぴち。そしたらなんか上手くいって、壺が倒れてそのまま謎のお湯と一緒に排水口のほうにだーっと流れていっちゃってさ。気がついたら下水みたいなとこにいたのね。

 まあ、ばっちいけど、泳げなくは、ない。呪いの水よりややまし? でも嫌だったからひたすら下流の方に泳いでいったの。これって下水管だろうから上流いってもどっかの家のパイプにつながってるだけでしょ?

 どんだけ泳いだかな。しばらくしたらやっと奇麗な川にでてまじかよ! って思った。あんなヤバ気な薬品を川にそのまま流してるのかよ……。この世界にエコはない。


 でもとりま、なんか自由になったからふよふよ泳いでたら滝についたんだよね。なんか奇麗な滝。そうすっとなんか頭の中で言葉が浮かぶの。


『タケシよ、滝を登りなさい』


 タケシって俺の前世ネームな。これは神様の思し召しだと思ってそりゃあ頑張って登ったんだよね。それに鯉って滝を登ったら龍になるんだろ?

 それにここにいてもなんかヤバ気なでかい魚がごろごろいて死ぬ気がしてきたし。きっと登りきったらチートだ! と思って頑張って。なんか変な液につかったご利益があったのか、妙にもりもりと力がでてきたんだよ。そんでさ、頑張って、歯を食いしばって滝を登りきったらさ、体が変化してきたんだ。

 やった! 龍になれる! これが俺が本来たどるはずだった奇麗な運命なんだ! 龍になったらきっとモテモテ!

 そう思ってたのにさ……。

 なったよ、龍になったよ。でも邪龍だったよ。わかる? 俺の気持ち。やっぱあの闇堕ちした魔法使いみたいなのの液にまみれたのが悪かったんかね? 俺なんもしてないのにさ、討伐隊組まれてさ、だから逃げ回るしかないの。強くなったけどさ、チートはあるけどさ、こんなこと言えるのは同じ転生者のあんたぐらいだよ。聞いてくれてありがとね。でも俺おなかすいててさ、ほんとごめん。ちょっとこれ本能で。まじ、ごめん。


 そうして鴨に転生していた私は目の前のでかい邪龍に丸呑みされた。

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