第10話

「あと三分ね」


サーニャがコンソールを操作しながらそう言った。俺はうなずいて、サーニャとイフテに指示を飛ばす。


「よし。中和シールド展開、出力100パーセント。レーザー砲展開」

「了解」

『了解』


シールドジェネレーターが起動し、さらに《ノルネ》のレーザータレットが起動する。


「レーザー砲はサーニャの指示のもとオート射撃で頼む。ミサイルの迎撃を最優先にしてくれ。偏向シールドへの変更は、サーニャの一存で変えて構わない」

「わかったわ」


人類の三大模倣は、『ワープゲート』、『重力制御装置』、そして今展開したシールド…正確には、シールドを生成する『シールドジェネレーター』である。


シールドには二種類存在し、それぞれ『偏向シールド』と『中和シールド』である。偏向シールドは、周囲の力場を変化させることによって攻撃を文字通り偏向させ、防ぐものである。

そして中和シールドは、エネルギーをシールドジェネレーターからのエネルギーと相殺することによって防ぐシールドだ。


中和シールドは全ての攻撃を消滅させることが可能だが、シールドジェネレーターに大きな負荷がかかるという弱点がある。

一方で、偏向シールドはシールドジェネレーターへの負荷は小さいものの、攻撃を打ち消すことはない。そのため、結果的に同じ攻撃を偏光することになったり、流れ弾を発生させて他の艦船に迷惑をかけることになりかねない。


どんなシールドジェネレーターも両方のシールドを出力することができ、状況に応じてモードを切り替えることが可能だ。


今俺が指示したように最初は中和シールドを展開しておいて、その後偏向シールドに切り替えるのが定石だ。

理由としては、どんなシールドジェネレーターも一度オーバーヒートすると再起動に五分はかかるためだ。シールドジェネレーターは一つの船に一つしか積めない(エネルギーと力場という二つの大きな問題がある)ので、これを解消することはできない。


シールドジェネレーターに負荷がかかる中和シールドから、比較的負荷が軽い偏向シールドに切り替え、オーバーヒートを防ごうとしているわけである。


「設定完了」

『ハイパースペースから出るまで、5......4......3......2......1......』


ぬるりとハイパースペースを抜ける。それと同時に、《エースルーズ》からの通信が飛んで来た。


『前方にイーゼルタの拠点船:《イーゼルタ》を確認。作戦αへ移行してください』


イーゼルタの拠点となっている船、その名も《イーゼルタ》は、帝国の拠点である《ピッグス》よりさらに三倍ほど大きい船。今回の作戦の最終目標は、あの船の撃沈、もしくは鹵獲だ。


あの大きさだとジェネレーターを壊しでもしない限り稼働し続けると思われるので、現実的には鹵獲を目指すことになるだろう。


俺たちがハイパースペースから出たのは、イーゼルタからかなり離れた地点だ。そこに陣を敷き、《イーゼルタ》へ攻撃を仕掛けていくことになる。


『全砲艦へ告ぐ。作戦αに従い、砲撃の準備を開始せよ』


砲艦というのは、戦艦の副砲クラス以上の武装を持つ船の総称だ。

《ノルネ》には武装として超重ビーム砲二門があるため、一応砲艦として動くことも可能だ。最も、さすがに火力では戦艦級の船には勝てないが……


『プラズマ砲、チャージ中。超重ビーム砲、照準設定中……完了しました』

「そのままオートで撃ってくれ。お、出てきたっぽいな」


レーダー上に、《イーゼルタ》からさあっと味方識別信号がないことを示す赤い点が広がる。


「サーニャ、分析を頼む」

「もうやってるわ」

「流石」


サーニャは目にもとまらぬ速さでコンソールを叩く。サーニャは貴族の一員として、十年にわたる生体強化処置を受けているため、そこらのオペレーターとは比べ物にならない情報処理能力を持つ。

もちろんそれが目当てでサーニャをさらったわけではないが、クルーとしては非常に頼りになる能力だ。


『全砲艦に次ぐ。目標:イーゼルタ。砲撃、開始!』


《エースルーズ》をはじめとする船から、色とりどりのビームがイーゼルタへと放たれる。おそらく多くは《イーゼルタ》のシールドを削るのみだろう。


『全艦隊へ通告。突撃部隊、発進せよ。艦隊は守備陣形を取れ』


作戦αでは、艦隊を二つに分ける。一つはこの場で陣形を保ってイーゼルタへと砲撃を加える守備隊、そしてもう一つは《イーゼルタ》へと接近して《イーゼルタ》の武装と《イーゼルタ》を守る艦船を削る攻撃隊である。

役割上、前者は大型の艦船が多く、後者は戦闘機が多くなる。


ちなみに、俺たちは一応前者の守備隊に配置されている。


艦隊から、戦闘機をはじめとする多数の船が《イーゼルタ》へと向かっていく。


いよいよ、本格的な艦隊戦が始まる。

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