第8話

瞬間、サーニャがしゅばっと元の位置に戻る。


入ってきたのは、警備隊の隊長だった。

くたびれた顔をしてタブレットを抱えている。


「……一応、状況だけ教えておく。まず、7人が争った原因だが……どうも、このお守りを巡ってのものらしいな」


そう言って隊長が腰のかばんから取り出したのは、見覚えのあるお守り。

俺が今日売ったやつだ。


「どうやら、こいつを誰かと2億cogで売る契約を結んでいたらしい。そんで、その契約を両方が結んでいたらしい」


俺から300万で買って2億で売ろうとしてたのか。俺のぼったくり酒もびっくりの利益率である。


「契約っていうのは……誰と?」

「不明だ。現在、必死で捜索しているが……まあ、見つからないだろうな」


そういうと、深々とため息をつく隊長。


「そんで、よせばいいのにお前さんからこれを買った三人が自慢げに見せびらかし、口論になったところを……というわけだ」


ここで活動するだけの実力があるのなら、2億ぐらい簡単に稼げそうだが……目先の金に溺れる奴はどこにでもいるということか。

あるいは、プライドが許さなかったのかもしれない。


「一応、このお守りは渡しておく」

「いいのか?」


俺は隊長が差し出すお守りを受け取って剣帯にくくりつける。


「ああ。このまま見つからなければ、ただの殺人事件として処理する。加害者側も処分することだしな。お前たちもそのつもりでいてくれ」


つまり、お守りの件を揉み消すということだ。

元貴族のサーニャさんをちらりとみると、聞かなかったフリをしていた。清濁併せ吞むことも時には必要である。


「それじゃあ、俺たちはこれで」

「ああ。おとなしく待機してくれて助かった。冒険者の中には強行突破して帰るやつもいるからな……」


苦労がしのばれる。

俺はサーニャの手を取って出口へと歩きだした。


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「それにしても、まさか《アイ》の女の子がいるとはね」


帰ってから、不意にサーニャがそう言った。


「ああ。もし入ってくれれば……俺たちは大きく戦力を増強できる」


《アイ》というのは、種族の名だ。


外見は人間とほとんど変わらない(し、なんなら子供もつくれるぐらい遺伝子的には似通っている)が、唯一人間と大きく異なるところがある。

それは、眼だ。

《アイ》は例外なくオッドアイであり、その瞳には特別な力が宿っている。例えば、遠くを見たり、洗脳したり、そして––––未来を見たり。


そしておそらく、ルミナは未来を見る力を持っているはずだ。

『未来を見る目を持つ者は金色の瞳を持つ』ということを聞いたことがある気がする。


「……ていうか、《アイ》のことなんて、よく知ってるわね。確か、かなり厳重に管理されているはずだけど」

「輸送ギルドの信用スコアが高かったからな。いろんな依頼を経験して……その過程でいろんな情報が入ってきたんだ」

「ふーん」


と、タブレットをいじっていたサーニャが一つのファイルを送信してきた。

ファイル名、「2日後の作戦について」。


「2日後か……さすがに、そこまでに引き抜くは無理そうだな」

「そうね。必要弾薬の発注とかはもうすませたわよ」

「ありがとう、サーニャ」


俺はタブレットを置いて、サーニャをひょいっと膝の上に乗せる。


「一緒に作戦を確認しようか」

「……ふん」

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