第7話

「え……えと……その……」


少女は目を泳がせて後ずさろうとする。俺は引き止めて、宝石のように美しいその瞳を覗き込む。むかし教えてもらった勧誘のテクニックだ。


「今、俺の船には俺とサーニャしか乗組員がいなくてな。よかったら、俺たちと一緒にこないか?」


……死体がころがるなかでの勧誘というのもまあまあ考えものだが、この時を逃すわけにはいかない。


「えっと……その、しばらく考えさせて欲しいです」

「そうか」


とりあえずこの場で断られなかったことに俺は安堵した。


「ごめん、名前を聞いてなかったな。名前は?」

「えっと、ルミナス=アウリミカです。ルミナと呼んでください。それで、その……」

「ああ、俺はレフラス、そっちは……」

「サーニャよ。レフラスのクルー」


しっかり俺の話に聞き耳を立てていたサーニャが自己紹介をした。


「あ、その、よろしくお願いします」


そう言って後ろを振り向こうとする少女––––ルミナをあわてて俺は制止する。


「そっち向かない方がいいぞ」

「あ、すみません……」

「まあ、気が向いたら是非連絡してくれ」


俺はそう言ってパーソナルデバイスの連絡先を交換する。


と、どやどやと警備隊が駆けつけてきた。


「ここか!うっぷ」


現場のすさまじい惨状に、先頭の、おそらく隊長と思われる男が口を押さえる。


「……と、とりあえず状況はなんとなくわかった。付近の調査をすれば、証拠も出てくるだろう。おい!」

「はい!」

「その4人をぶちこめ。そこの銀髪の女の子は病院へ、赤髪の子とそこの男は一緒に来てもらう。以上、散開!」

「は!」


気持ちのいい返事をして、隊員たちが散開した。


「それで、あー、とりあえず一緒に来てくれるか?お嬢ちゃんは待機しているモビールにのってくれ。今日の仕事は休んでいいとの言伝だ」

「は、はい」

「もちろん。またな、ルミナ」

「はい。助けてくれてありがとうございました」


深々とあたまを下げると、一人の女性隊員に連れられてルミナは去っていった。


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十分後。


「あのー、サーニャ?」

「何かしら?」


いつもより2.5倍ツン増しの声を出すサーニャ。心なしか、トゲも満載な気がする。

俺はそおっとサーニャの脇腹に手を伸ばし、ひょいっと持ち上げる。そして、膝の上にサーニャを乗っけて腕の中にとじこめる。


うん、素直にされるがまま……ということは、本気で何かに怒っているわけではないようだ。どちらかといえば、拗ねているような感じか。

そしてその心当たりは……


「あー、俺にとってはサーニャが一番だぞ。これまでも、これからもな」

「どーだか」


興味なし、といった感じでいいつつも、サーニャはこちらを見上げてくる。


「別に、怒ってないわよ。私はあなたの想いに応えてないんだから、他の女に目移りするのを止める権利はないわよ」

「いや、目移りしたわけでは」

「へー」


全く信用していないサーニャのセリフ。

口で説得するのは無理だと判断した俺は、くるりとサーニャをこちらに向かせ、髪と同じ紅に輝く瞳をじーっと見つめる。


そしてほっぺたにそっと手を当てて、


「サーニャ、好きだ」


と愛をささやいた。


「……こんなところで言われても」


言葉とは裏腹に、サーニャの頬がピンク色に染まった。


そのまま1時間ほど見つめ合っていると、不意にこんこんとドアがノックされた。

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