第4話

「案外、緊張してなかったわね」

「一応、貴族の方と話すことは仕事上それなりにあってな。……それをいうなら、サーニャも元貴族だし」

「どこかの誰かさんのおかげで貴族籍を抹消する羽目になったけどね」


サーニャはどこかの誰かさんにそう皮肉を飛ばしてくる。


「後悔はさせないさ」

「……ふん」


そう言うと、サーニャは鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

頭を撫でようとしたが、それはするりと避けられてしまった。


「……んん!」


と、完全に蚊帳の外にされていたソウシロウが咳払いして自己主張をする。


「ところで、軍の担当者への紹介は今した方がいいのかな?」

「ええ、お願いします」


その後、帝国軍に酒を高額で売りつけることに成功した俺はうはうは気分で船に戻った。


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残りの酒を問屋を介して高値で売り捌いていると、サーニャが寄ってきて、俺の隣にちょこん腰を下ろした。


「ねえ」

「どうした?」

「質問がいくつかあるんだけど」


俺はタブレットを横に置いてサーニャに向き直る。

交渉の途中だが、サーニャ優先である。チャットを介した交渉においては、返信にすこし時間をおくのも交渉のコツなので、ちょうどいい。


「一つ目、なんで酒があんなに高く売れたの?」

「……そうだな。一つはもちろん、元の値段が恐ろしく高い高級酒だったって言うのと……あと、こういう紛争地帯では嗜好品が不足しがちだからだな。酒とか、ポルノとか、ゲームとか。特に酒は、士気を上げる意味合いで振る舞われることが多いから、軍にとってはかなりありがたい物資なんだ。それこそ、高い金を払ってでも手に入れたいほどの、な」


紛争地帯で嗜好品が不足しがちな理由は、こんなところまでわざわざ嗜好品をうりにくるような商人がいないからである。

俺たちがきた途端に襲われたように、生半可な装備ではすぐに襲われて宇宙の藻屑となってしまう。それを避けるために腕利きの冒険者を雇う値段とかを考えると、ここまで高く売っても普通に赤字になってしまうのだ。

であるから、嗜好品はたまにくる腕利きの冒険者にほぼ供給を依存する形になる。当然のごとくそれでは供給に答えられず、値段が上がる……というわけだ。


「じゃあ二つ目。あなた、なんでそんなに交渉が得意なの?」

「むかーし、とある貴族に交渉のやり方とかを伝授してもらったことがあるんだよ」

「ふーん」


サーニャはちょっと拗ねたようにほっぺたを膨らませる。


「サーニャにも色々と教えてもらいたいな〜」


俺はそういいつつ、ほっぺたをぷすぷすとさす。

サーニャはいつものようにそっぽをむいて、「そ」と短く言った。どうやら機嫌が直ったようだ。


「……時にサーニャ。そろそろ俺たちの距離も縮まってきたろ?ハグくらい、許してもらってもいいんじゃないか?」

「気が向いたらね」


なかなかつれないお返事だ。

と、話は終わりとばかりにサーニャはソファを飛び降りた。


「そうだ。あとで冒険者ギルドに行こうと思ってるんだが……一緒に来るか?」

「何しに?」

「仲間になってくれる人を探しに」


この宙域にきた理由の一つには、仲間を見つけると言うのもあるのだ。


「行くわ」


サーニャはそう言うと、元の場所に腰を下ろす。


「それで、どういう人を探しに行くつもり?」

「そうだな。条件としては……とりあえず、女の子で性格が悪くないガンナー、ってところかな」

「……女の子?」


サーニャが私と言うものがありながら……とでも言いたげな視線を向けてくる。


「逆に、男がきても良いのか?」

「……女の子がいいわね」


サーニャはあっさりとそう言った。


「それじゃあ、ちょっと待っててくれ。残りの交渉を終わらせるから」

「……ん」


サーニャが返事したのを確認してから、俺は再びタブレットを手に取った。

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