第2話

帝国軍に半ば護衛されるような形で、帝国船《ピークス》までたどり着いた。


ピークスはずんぐりとした超巨大な船である。小さなコロニーぐらいの大きさを持ってて、内部で住むことも可能なほどの船だ。

中には戦艦や巡洋艦が多数入っており、母艦としての役割もある。


随行が解かれ、俺は発着管制官へと先ほどした通信と全く同じ内容の通信を送る。


「こちら小型戦闘艦《ノルネ》。乗員は2名、艦長のレフラス、乗務員のサーニャ。所属は冒険者ギルド......フラッグはなし。ただ、冒険者登録してまもないため登録照会してもでてこないとおもわれる。また、サーニャは28日前に貴族籍を抹消した」

「……………えー、貴族籍の人間は一律で入るのを禁止されており……いや、抹消した?えー……少し待ってくれ」


そんな歯切れの悪い通信ののちしばらくすると通信が入ってきた。


「えー、ハンガー32-1へと進んでくれ。ただ、ハンガーからは出ないように。おって指示をする」


そう簡潔にいって関わりたくないとでもいうようにぶちっと通信が切られた。


「丸投げしたわね」

「まあ、そうだろうなぁ……」


俺は指定されたハンガーへと急ぐ。コロニーのハンガーとは異なり、地面へと着地するタイプのハンガーだ。それぞれにカタパルトがついていて、出動時はそれで発進することになっているようだ。


俺は《ノルネ》を着地させると、パイロットチェア空飛び降りて、「ほい」とサーニャを受け止める体制になる。

サーニャは呆れたような表情になると、俺のよこにしゅたっと着地した。


少々寂しい思いをしつつ、コックピッドを出て船の下のカーゴスペースまで行く。


「……何をする気?」

「ヒミツ」


俺はカーゴの中に入っている大量のコンテナの一つをオープンして、一つの耐衝撃バッグをいくつか取り出して入り口付近においてから、船内重力をゼロにして、せっせと外の輸送システムへとはこぶ。

猛烈な質量があるはずだが、サーニャは軽々と運んでいた。


そして、いざ流通組織との取引をはじめようとした時、ちょうどハンガーのハッチが開いた。

ハンガーには、基本的には使用者と使用者の客員しか通れないので、ここに入ってこられるということはかなりの権力を持っていることになる。

入ってきたのは、かっこいい制服を来た人が5人。うち先頭にいる人物は、高い地位にあることを示す階級章をつけていた。


「はじめまして。わたしたちは帝国軍近衛隊のものです。私は体調のソウシロウと申します。……第三王女がお会いになるとのことで、ご同行願いたく」


意外にも丁寧な言葉で先頭にいる人物はそう述べた。


「了解しました」

「ありがとうございます」

「では、こちらへ」


歩き出す先頭の人物。俺はさっき出しておいたバッグを一つ持つ。


「サーニャも一つもってくれ」

「手が二本あるんだから二つ持てるでしょ」


サーニャはそう言いながらも、ひょいっと持ってくれた。

結構な距離をくねくねと歩かされたのちに案内されたのは、普通の応接室だった。


「ここで待機してもらいます。……それから、一応バッグも調べさせてもらえますか?」

「もちろん。ただ、あまり精神衛生上よくないと思いますよ?」

「………?」


首を傾げつつ警戒体制になるソウシロウを尻目に、俺はパスを入力してバッグを開ける。

中には、酒瓶––––それも、一本30万もする高級酒––––が一ダース入っている。


サーニャも「酒だったのね……」と呟きながら、パス(俺が入力してたのとおなじコードだ)を入力してパカっと開いた。こちらは、全て別々の高級酒が一ダース。平均価格は同じく30万円だ。


ごくりと近衛兵が喉を鳴らす音が響く。


「この神聖なる戦場に酒を持ち込むとは何事だ!これはぼっしゅ……ぎゃん!」


なんかよくわからない理屈で没収をかけようとした近衛兵の女性が頭をごちんと叩かれた。目が血走っていてとても怖かった。


「……これから王女様に面会に行くものに向かって、不当な権力の行使を企てるとは……なかなかいい度胸だな?しかも、この私の前で」


淡々と恐ろしい迫力でそういうソウシロウ。こっちの方が怖かった。


「やだなぁ、隊長。ほんの余興ですよ」


そう言いながらも、目はギラギラと酒を見つめていた。

俺は内心で満面の笑みを浮かべる。


「……もしよろしければ、近衛兵の方に特別にお売りいたしますよ?」

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