メフィリクス星系編

第1話

そして、28日後。


「もうすぐハイパースペースから出る。サーニャ、戦闘に備えてくれ」

「了解」


メインオペレーターチェアに座っているサーニャは、シールドを展開し、各武装にエネルギーを通す。


「上のビーム砲に乗ってもいいぞ?」

「そうね……せっかくだし、そうするわ」


サーニャはオペレーターチェアを飛び降りて空中で一回転すると、すたっと着地する。ちなみに現在の船内重力は1Gである。肉体が生体強化されていないとできない芸当だ。


さーにゃはたったかたーとコックピットの外へと駆けていく。


『ハイパースペース脱出まで、あと5……4……3……2……1……』


イフテのカウントダウンとともに、ぬるりとハイパースペースから出た。俺は船外カメラやセンサーを駆使して、紛争宙域を航行中のはずの帝国船を探す。


『……警告。所属不明の小型船が五隻、中型船一隻が接近中』

「了解」


俺はレーザー砲を展開し、シールド出力を上昇させる。

紛争地帯と所属不明という状況の組み合わせから考えて、十中八九敵だ。

と、所属不明船から通信が。


『よう、荷物を置いてい』


俺は通信を切った。盗賊の言葉を聞く耳は持ち合わせてない。


「サーニャ。準備は?」

「できてるわよ」

「よし」


スロットルを全開に吹かし、一気に加速する。

プラズマキャノンをチャージし、旋回して機種を所属不明船の方に向けて放つ。


そして、盛大に外した。


「あほなの?」


サーニャの可愛らしい罵倒に心地よさをかん……ではなく、聞き流しつつ、第二射を今度は接近して放つ。当たらないのであれば、至近距離で撃てばいいだけの話だ。


中型船を狙ったつもりだったが、小型船に阻まれてしまった。

シールドが全損した小型船をレーザーでこんがり焼きつつミサイルやビーム砲を避け、砲撃の隙を探っていると、イフテから報告が入った。


『報告。帝国船《ピークス》を発見』

「よし。一応、救難信号を入れておいてくれ」


《ピークス》というのが、紛争宙域における帝国の拠点である。


「サーニャ、当たりそうか?」

「……ムリ」


さっきからぴゅんぴゅんと頭上から光条が飛んでいたものの、シールドにすら当たっていなかった。サーニャはどうやら諦めたようで、レーザー砲の操作を始めた。


『警告。ハイパースペースより船が脱出してきます』


ぽぽぽぽぽと増援らしき10隻の船が飛び出てきた。


……仕方がない。


「サーニャ、ミサイル発射」

「了解」


《ノルネ》の側面がかしゃりと開き、内蔵されているミサイル発射装置が顔を出す。そして、12×3発のミサイルが宇宙に解き放たれた。

サーニャによってその全てが自在に操られ、次々に着弾していく。脳を生体強化されたサーニャにとっては、造作もないことである。


運悪く当たらなかった船に砲撃を加えようとしていると、不意に軍用の暗号チャンネルから砲撃予定通信が飛んできた。


慌てて回避すると、ぴゅんぴゅんぴゅんと正確無比な重レーザー砲が所属不明船につきささる。


『こちらピークス所属帝国軍巡洋艦、インツト。応答願う』

「こちら小型戦闘艦《ノルネ》。乗員は2名、艦長のレフラス、乗務員のサーニャ。所属は冒険者ギルド......フラッグはなし。ただ、冒険者登録してまもないため登録照会してもでてこないとおもわれる。また、サーニャは28日前に貴族籍を抹消した」

『………………………了解。詳細はピークスで判断してもらってくれ。ひとまず、貴鑑には我々に随行してもらう』


かなり長い沈黙のあとに、判断を丸投げする通信が飛んできた。そして一方的に通信が切られた。同期申請を送ると、すぐに受諾された。

これで、特に俺たちは何もしなくてもピークスまで連れて行ってもらえる。


「サーニャ、降りてきて大丈夫だよ」

「了解。じゃ、今からそっちにいくわ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る