第3話
コロニーの中心部にある行政府へと到着した。さすがにハブコロニーにあるだけあって、とても大きい。
行政府......と言いつつ、ここは行政、司法、立法の全てを取り扱っている。
ここにきた目的は、サーニャの貴族籍の抹消と通行権の購入だ。帝国では、星系間の移動をするのには資格が必要なのだ。ちなみにお値段は10,000,000cog。まあ、安くはない金額である。
俺は行政府の中に入り、受付端末を叩く。そして、表示された個室へと入った。
「こんにちは。今日はどのようなご用件でしょうか?」
「帝国貴族法第74条の適用を申請をお願いしたい」
「帝国......貴族法?......はて?」
受付の女性は意味不明といった表情だったが、ぽちぽちと画面をのぞき、のけぞった。上半身がきれいに30度傾いている。
そのまま俺とサーニャの間で忙しなく視線を行き来させ、
「す、少しお待ちください!」
と1オクターブ高くなった声を上げて奥へと引っ込んだ。
「あらら」
「まあ、当然よね」
そのまま待たされること15分。受付の女性と、その上司と思われる女性が出てきた。
「その......侯爵がお会いになるそうです。いろいろ便宜を図る......と。追われるみだろうから、今すぐきて欲しいともいってました」
どうやら、上司に報告して対応を請う→どうしていいのかわからない上司がその上司に対応を請う→その上司が......という無限ループの末、公爵まで話が上がったらしい。
俺はちらりとサーニャに視線を送る。サーニャは「好きにしなさい」とでもいいたげな視線で返してきた。
俺は少し考えてから、「会います」と返答した。
「そうですか......では、こちらへ」
上司の女性は、部屋の外のエレベーターへと俺たちを誘導した。上司の女性はコントロールパネルにパーソナルデバイスを押しつけてから掌を当てる。そして認証が通ると最上階のボタンを押した。
30秒とかからずに到着し、キンコーンとチャイムが鳴った。
「では、こちらです」
女性はそういって俺とサーニャを案内する。元貴族だからか、サーニャは特に緊張した様子は無い。俺は......仕事柄何度か貴族にあったことはあるが、今度は事態が事態である。正直いって、余裕がない。
......まあ、いざとなったらサーニャに助けてもらおう。
「公爵、お連れしました」
「......通しなさい」
「失礼します」
女性はかちゃりとドアを開ける。なぜか自動ではなかった。
女性に続いて俺も中に入る。
「セイント=フォン=プリハモンだ。この星系を統治している」
「冒険者ギルド所属、レフラスと申します」
「ミアトライン家が長女、サーニャです」
「ふむ......まあ、かけたまえ」
セイント公爵は対面のソファを指し示す。俺は導きに従い座る。
「それで、帝国貴族法74条の適用......だったかな?」
「はい」
「......まあ、手続きはもう進めてるがな」
「......はい?」
なんか、てっきり審査とかそういうものがあるのだと思っていた。
「貴族が帝国貴族法を破るわけにはいかん。もし手続きをしなければ......わしの首が飛ぶだろうな」
考えてみれば、当然か。貴族にとって帝国貴族法は権力の源泉である。
それを貴族自ら破ってしまえば、貴族の権力を自ら否定することになってしまう。
「ついでに、通行権の付与や弾薬の購入権の設定も進めている。こちらは今回の面談し......
「あなた、74条の適用ですって?」
と、ばあんと扉を開けて女性が入ってきた。
「......メグミカ」
「あら、もうきてらしたのね。セイントの妻、メグミカ=フォン=プリハモンです。よろしくね、レフラスさん」
「はい」
俺は名乗った覚えはないが......いや、深く考えるのはやめよう。
「一つ、聞いてもいいかしら?」
「はい、なんなりと」
「あなたは、サーニャちゃんを貴族籍を捨てさせることと釣り合うほどの幸福を約束するのよね?」
「貴族としての幸せとは異なると思いますが......刺激に溢れる幸福をお約束します」
なんというか、結婚式の宣誓のようなセリフで、少し恥ずかしい。
ちらりとサーニャの様子を伺うと、平静を装っているが少し照れているのがわずかに赤くなった耳からわかった。
「......うむ。デートの邪魔をして悪かったな。この部屋を出てすぐ右の部屋に必要な書類が用意してある。行くが良い」
「は。失礼いたします」
「失礼します」
サーニャは立ち上がると見事なカーテシーを決める。
そして、俺たちは部屋を後にした。
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俺たちが部屋を去ったあと。
「どう思われます?あなた」
「うむ。害意はないだろう。抵抗権と言うよりは恋愛感情だな。メグミカ?」
「そうね。男の子の方は、サーニャちゃんにぞっこんね。サーニャちゃんも......まあ、満更ではなさそうだけど。まだ心は開いてなさそうね。......青いわねー」
メグミカはそういうと遠くを見る目になる。生体強化によって若々しい容姿をたもっているが、精神はすでにおばさんのそれである。
「実に400年ぶりか」
「早速自慢してこなくっちゃ。あなた、外遊の予定を組んで」
さらっと夫の仕事を大量に増やすメグミカ。セイントの方も、真の目的はともかくとして外遊のたびに確実に何か成果を持ち帰ってくるほどの外交力を持つメグミカに異議を唱えることができず、うなずいた。
––––こうして、俺たちは帝国貴族間の女性の間で話題の的となっていくのであった。
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