第2話

「ただいま」

「おかえり。それで、どんな服を買ってきたのかしら?」


俺はサーニャに服が入った袋を渡す。

サーニャはごそごそとあさり、中から服を取り出す。出てきたのは、シンプルな、薄めの青色のワンピースだ。その下には、履きやすさを重視して設計されたブーツが入っている。


「......どうだ?」

「まあ、悪くない趣味ね。いくらしたのかしら?」

「両方合わせて15000cog......ってところだな」

「そう。ありがとう、レフラス」


俺の心臓がどきりと跳ねる。破壊力がすごい。


「それじゃ、着替えてくるわ」


サーニャは自分の部屋へと走っていった。

俺は熱くなった頬を誤魔化すように、タブレットを操作する。サーニャの花嫁衣装をミアトライン星系へ送り返す手配をしなくてはならない。もちろん、利用するのは懐かしの輸送ギルドである。送料は20000cog......まあ、安くはない値段だ。


申し込みを終えてタブレットをしまうと、ちょうどサーニャが部屋から出てきた。


「おお......」


自分の買った服を、好きな女の子にきてもらう......というのは、なかなかいいものだ。

サーニャはサービスのつもりか、くるりと回ってみせる。青いワンピースの裾がふわりと舞う。


「どうかしら?」

「赤い髪が映えてて、とても可愛い」

「そ。じゃ、行きましょうか、私、コロニーを回るのは初めてだから、案内してね」

「貴族として視察して回ったりとかしないのか?」

「セキュリティの問題と......あと、貴族令嬢っていうのは大抵は半ば軟禁するような形で育てられるのよ」


なんだか、貴族社会の闇がさらりと垣間見えた気がする。


「......それで、最初は何処にいくの?」

「そうだな......まずはデバイスショップに行かないとな。パーソナルデバイスはないと困るだろ?」

「今まで使ったことないからわからないわ。さ、早く行きましょ」


そういって俺を急かすサーニャ。意外と、ワクワクしているようだ。


俺はサーニャとともに船のフラップから外に出て、コロニーへと繋がる通路を潜る。そうすれば、もうそこはコロニーの中だ。


さあ、サーニャとの初デートの始まりである。


ハブコロニーなだけあて、人の密度が段違いだ。無数の店が立ち並び、人やコンテナが行き交っている。


「取り合えず、移動システム(作者注・コロニー内の公共交通機関のこと)に乗って街の中心部まで行こう。ほら」


俺はサーニャに手を差し出す。


「......握れと?」


子供じゃないんだけど、というような目でこちらを見るサーニャ。


「いや、デートの定番だから......」

「......そ」


サーニャは案外素直に掌を乗せてきた。身長差が40cmもあるため、だいぶアンバランス感が強いが......まあ、仕方がない。

繋いだ手の感触を確かめつつ(とはいっても俺の手はボディスーツによって手は覆われているが)最寄りの移動システムの駅に行く。


二人乗りのやつに乗り込み、行き先を設定。パーソナルデバイスを介して決済を行うと、プシューっという音を立てて動き出した。

サーニャはまるで小さな子供のように、外を興味津々といった様子で眺めている。思わず手を伸ばして頭を撫でると、ぺしっとすげなく払われてしまった。


10分とたたずに目的地まで到達した。結構なスピードだ。

俺はサーニャをエスコートしつつ列車を降りる。そして、目をつけていたデバイスショップへと入店した。


「......で、どういうのを買うのかしら?」

「まず、タイプを選ぼう」


パーソナルデバイスのデザインタイプは、大きく三つある。

携帯型、ウェアラブル型、スティック型である。


携帯型は、普通の液晶ディスプレイが付いた小型端末だ。まだ人類が宇宙に進出していなかった時代に倣って、スマートフォンと呼ぶ人もいる。

そして、ウェアラブル型は腕輪、メガネ、指輪、イヤリング(使っている人は滅多にいないが)などの形をしたもので、体に身に着けられるデバイスだ。

スティック型は、四角い棒のような形をしているデバイスだ。割と失くしやすいのが欠点である。


というような話をサーニャにしていると、サーニャは熟考モードに入った。


「ちなみに、俺は腕時計型に変えようと思ってるけど」

「......そうね......私は、携帯型にするわ。形は四角で」

「そうか。ま、気に入らなければ四年後くらいに買い替える時に変えればいいさ。それで、タブレットはどうする?」

「携帯型と同じにするわ」

「了解。じゃあ、決済しよう」


俺は傍の店員ロボット(円柱型で、頭の上にタブレットが付いているロボット)を呼び止めて、購入手続きをする。


3分ほどして、俺とサーニャの新しいパーソナルデバイスが運ばれてきた。タブレットの方は、船へ輸送するように手配してある。


お値段は、パーソナルデバイスが一台500,000cog、タブレットが一台750,000cog。タブレットは二台を二人分買ったので、合計4台である。

よって、合計4,000,000cog。まあ、なかなかにデンジャラスな買い物だが......俺の経験上、デバイスの質は、日々のストレスに直結する。これでも安い買い物だ、と俺は思う。


早速、俺は新しいパーソナルデバイスを腕に取り付ける。サーニャのパーソナルデバイスは、ストラップで首から下げた。


「さ、行政府に向かおう」


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