デート編
第1話
十日後。
俺たちは、プリハモン星系へと到達した。ここはハブ星系––––広大な宇宙の物流の拠点となる星系である。
ほとんど何もない宇宙空間において"物流の拠点"などというものがなぜあるかというと、ハブ星系からおよそ一時間のところにある、ワーブゲートが原因だ。
ワープゲートは、人類三大模倣の一つである。原理は、この世界を高次元の空間から覗いたと仮定して三次元の外から空間を繋げる––––というものだ。詳しい理論は、残念ながらさっぱりわからない。
帝国では、大体ハイパースペースを航行して70日ぐらいの距離ごとに相互につなげられるワープゲートが設置されている。
その重要さから帝国の第一位貴族である公爵が統治しており、また一切の貴族による政治介入が認められていない、半分帝国領のような場所である。
俺たちが行くのは、《plh-01》、プリハモン星系第一コロニーである。とある用事を済ませに、第一コロニーに行く必要があるのだ。
『こちらテインツ
「......こちらは
『............』
あれ。通信が切れたか?
『あー......冒険者ギルドの登録情報を確認した。それで......その、貴族様のことだが......』
「はい」
『ひとまず、行政府に行ってくれ......としか、こちらでは言えない。軍と貴族は原則相互不干渉だからな。着艦してよし。ハンガーNo.127-1へ』
「どうも」
意外と何事もなく通された。
「次はこのやりとりもお願いしていいか?」
と、俺はコックピッドの窓から外を眺めているサーニャに声をかける。
「まあ、いいわよ」
と、サーニャ。この七日噛んで少しは心の距離が縮められたのか、声の険が少し取れている。
俺は慎重に船を操舵しつつ、コロニーのハンガーへと進む。いつもとは行き交う船の数も桁違いなので、事故を起こすと玉突きで洒落にならない規模で被害が拡大して、とんでもない賠償請求が来かねない。
要所要所でイフテの力も借りつつ、なんとか無事に着艦した。
俺はコックピッドから飛び降りてサーニャを見上げる。
「それじゃあ、先に出て服を買ってくるから、少し待っていてくれ」
現在"服を着るための服がない"状態のサーニャへ俺はそういった。
結婚式の花嫁衣装なんてコロニーで着てたら、目立つことこの上ない......ゆえに、まずは目立たない、されど可愛い衣装を買ってこようという作戦である。
「......いいけど、サイズはわかるの?」
「身長と足のサイズなら分かる。それに、いざとなればイフテのデータを参照してスリーサイズくらいだったら......」
瞬間、俺の顔の横をサーニャの拳が通過する。
一陣の風が吹き、俺の髪を激しく揺らす。
身長に比例して、サーニャの手は小さいが......しかし、生体強化によってレールガンのような破壊力を持つ。それこそ、並の人体ぐらいだったら容易に破壊できるほどに。
「......いい?もし買えなかったら、まずは私に連絡すること。いいわね?」
「ハイ......」
俺はこくこくとうなずく。
ふん、と鼻を鳴らしてサーニャは拳を引っ込めた。
「インナーとかは買ってくる必要はないから。じゃあ、いってらっしゃい」
「......いってきます」
いってらっしゃいと送り出されるのはいいな〜などと考えながら、俺は船を出た。
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