第11話

一週間後。

ぐちゃぐちゃになった足も治り、俺は医療ポッドから出た。そばに用意してあったボディスーツに腕を通し、俺は二階のリビングまで降りていく。

そして、超ご機嫌ナナメなサーニャがタブレットを叩いているのを発見した。


「あら、起きたのね」

「何か不満でもあったか?」

「私の服が1着もないんだけど。このギッチギチした儀礼用の服に包まれ、しかも洗濯中に裸でいるしかなかった私の気持ちがわかるかしら?」

「......すいません。ただ、流石に俺が小さな女性用の服を買ってたら、流石にアシがつくというかなんというか......」

「わかってるわよ」


サーニャはそういうとふん、と鼻を鳴らした。


「とりあえず、座りなさい。尋問を始めるから」

「はい」


尋問、という言葉選びにものすごく不穏なものを感じるが、俺はとりあえず着席した。


「で?なぜ私をさらったのか、何を私にさせるつもりなのか、この2点についてお聞かせ願いたいわね。王族が引き合わせて作ったこの縁談をぶち壊してまで」


––––それは初耳なんだが。


「王族って、本当か?」

「ええ。トレミラータ第二王子がこの縁談に一枚噛んでるのよ。だから......まあ、第一皇后派閥が丸ごと敵になってもおかしくないわね」


それは......結構やばい。

確か、ミアトライン家は第一皇后派だったか?その傘下の特定の誰かを支持しているわけではなかった気がする。


「......とりあえず、プリハモン星系は大丈夫か?」

「ええ。あそこを統治する公爵は中立だから」

「なら大丈夫か。最初の質問の答えだけど......」


俺はサーニャの瞳をじーっと見つめる。


「一目惚れ」

「......は?」

「サーニャを人目見て、欲しいと思った。だから、貴族法にもとづいて誘拐した」

「..................ふーん」


サーニャの頬に少し朱が入った。流石に、面と向かって好きと言われるのは照れるらしい。俺はその隙を見逃さず、畳み掛けることにした。恋愛は速攻だとかつての悪友がいっていた。


「サーニャが、好きだ」

「......そ。でも、まだその気持ちには答えられないわね。一応、まだ貴族籍があるんだし。あったばかりで、あなたのことよく知らないし」


まあ、恋愛は根気が大事だともいっていた。気長にやっていこう。


「それで、二つ目だけど......逆に何がしたい?」

「え?」


サーニャが首を傾げる。


「この船では、ガンナー、サブパイロット、メインオペレーターの三つかな。どれがしたい?」

「ガンナーって何?」

「船のうえについているタレットに乗り込んで射撃する役割だな」

「ふーん。そんな設備があるのね」

「かなり練習しないとあてられないけどな。俺としては、メインオペレーターになってほしい。情報分析とか、対外交渉とか、得意だろ?紅の才媛って呼ばれているくらいだし......」

「......なにそれ?」

「え?あー......」


どうやら貴族令嬢だからか、SNSを見ていないらしい。

そういえば、パーソナルデバイスも持っていないようだったから、もしかしたら外部の情報と遮断されていたのかもしれない。あるいは、常に監視がついていたとか。貴族も大変だ。

ともかく、どうやって説明しようか......


「えーっとだな。SNSでそういう渾名がつけられているというか......」

「ふーん。まあ、悪くないわね」


一応、満更でもないらしかった。


「それで、三つ目の質問なんだけど」

「なんだ?」

「これからどこにいくの?」


何処に行くの?というのは、プリハモン星系に行った後のことか。


「メフィリクス宙域に行くつもりだ」

「......紛争地帯じゃないの、そこ」


さすが紅の才媛。ミアトライン星系から結構離れているはずだが、知っていたようだ。

メフィリクス宙域は、大きな軍事組織がいくつか根を張っており、日夜抗争が繰り広げられている大変治安の悪い宙域である。現在、帝国は支配を広げるため、軍を派遣して対応に当たっている。


「ああ。ただ、色々と俺たちにとって都合がいいんだ。まず、普通の宙域に行ったら、貴族同士のトラブルに巻き込まれる可能性が高い。まだ、サーニャの貴族籍が周知されていない可能性が高いからな」

「......まあ、そうね。特に、第一皇后派にはいくわけにはいかないわ」

「そして、他国にいくわけにはいかない。おそらく、もっと面倒な事になる」

「まあ、それもそうね」

「で、考えたのが紛争地帯というわけだ」


紛争地帯は基本的に貴族が入ることが禁止されている。理由は、貴族同士の権力闘争を禁止するためだ。つまり、トラブルに巻き込まれる可能性が低くなる、ということである。


「なかなかいい考えね。......安全性を考慮しなければ」

「この船なら生き残れるはずだ。それに、接近戦になればサーニャがいるし」

「......そこは、俺が守る!といいなさいよ」


無茶を言わないでほしい。サーニャの体は生体強化されているので、俺の何倍もの力を持っているのだ。絶対的なスペックが違いすぎる。


「じゃ、私はしばらくオペレーターの勉強でもしてようかしら。あなたは......なにをするのかしら?」

「俺はコックピッドにこもってシミュレーターを動かしているから、気が向いたらきてみてくれ」


俺はリビングを出て、コックピッドへと向かった。

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