第8話

特に滞りなく冒険者ギルドの登録を終わらせた。これで今日から俺も、冒険者ギルドのニューピーランクである。


冒険者ギルドにはランク制度というものがあり、下から順番にニューピー、ルーキー、ベテラン、マスター、そして各国の上位100人のみがなるランカーである。ランクは、クエストの達成、強さを示すこと(例えば、大会で優勝したり、紛争地域で戦功を上げたり)、何かの成果を上げること(例えば、未開拓地域をマッピングしたり)によって上がる。


俺もいつか、ランカーになりたいものだ。《ノルネ》があれば、決して夢物語ではない。

まあ、その前に仲間を見つける必要があるのだが......さすがにある程度ランクをあげないと誰も集まってこないと思うので、当面は《ノルネ》の運転に慣れつつ、依頼をこなしてランクを上げることになるだろう。


さて。買い物へ行こう。


俺は商店街の方へと歩きだす。そして、まるでパレードが開催されているかのように人が道へと群がっている場面に遭遇した。

身長160cmの俺には人々の背後から何が起こっているかをみることはできなかったので、限界まで爪先立ちしてなんとか覗き見る。こういうとき、高身長の種族だったらなーと思う。


この群衆を集めているのは、物々しい警備だった。道がロープによって区切られ、さらにずらっと警備員が並んで群衆を阻んでいる。警備が人を寄せ、さらに集まった群衆に惹かれてさらに人が集まっている。

警備によって返って危険が増している気がするのは気のせいだろうか......


コロニーの外へと通じるハッチ付近に止まっていたビークルが動き出した。

ビークルは歓声とともにこちらへとゆっくり動いている。いろんな人が自前のデバイスでパシャパシャと写真を撮っていた。多分、いまSNSではお祭り騒ぎのはずだ。

俺は爪先立ちになったまま、一体どんな人が乗っているのか、人目見るべく目を凝らす。


––––美しい、少女だった。


赤い髪を後ろに流して、群衆に笑顔で手を振っている少女。顔はややつり目がちで、芯の強さを感じる。遺伝か突然変異か、身長はとても小さいが、その身に鮮烈な美を称えていた。


『結婚式は三日後の開催!広場にて!』


そんなアナウンスが流れる。

ふと、俺の脳裏に荒唐無稽とも思えるアイディアが浮かぶ。


––––いや、ダメだ。できるわけがない。


俺は心の中で首を振ってそのアイディアを打ち消す。しかし、一度思いついたアイディアは、消しても消してもバグのようにもう一度浮かんでくる。


と、そのとき。

0.1秒にも満たない時間。

少女の髪と同じ、燃えるような瞳と目があった。


息が詰まり、かっと頬が熱くなる。


––––やるしかないか。


俺は自分の中の衝動に抗うことを諦め、そっとその場を立ち去った。


船まで戻り、イフテに今日のことを報告する。


「イフテ」

『はい、なんでしょうか、キャプテン・エフタル』

「まず、冒険者ギルドへの登録を完了させた。確認してくれ」

『キャプテン・エフタルのデバイス情報を確認......完了。問題ありません』


さらっと俺のパーソナルデバイスのセキュリティを破ってみせるイフテ。もしかしたら、意図的なセキュリティホールがデバイスに予め埋め込まれているのかもしれない。後で、俺のデバイスのOSを丸ごと書き換えてもらおう。


「それから、結婚式の花嫁について調べてくれ」

『検索......サーニャ=フォン=ミアトライン。ミアトライン家長女。年齢、30歳。身長、120cm、体重40kg前後。エリト=フォン=アイスタンとの結婚が予定されています』


画面に次から次へとネットワークからかき集められてきたデータが表示される。


「よし。じゃ、この子を結婚式でさらうから、プランを立ててくれ」

『再考を促します。貴族を誘拐した場合、この船では脱出は困難です』


至極真っ当な答えが帰ってきた。

......ただ、それは違法に誘拐した場合の話だ。


「帝国貴族法74条。貴族の結婚式において、平民に挑戦の機会があたえられる。平民が勝利した場合、花嫁の貴族籍は剥奪される」


要するに、平民は武力によって貴族の花嫁を奪うことができる......という法律だ。


『......確認しました。確かに合法です。しかし、今までにそれらが実行された7件の全てが、事前に貴族との間で打ち合わせがあるか、あるいは貴族同士の暗闘の結果です』

「だが、違法ではない」


慣習はあくまで慣習だ。貴族ではない俺たちが、守ってやる必要などない。


「少なくとも貴族との関係を嫌う軍はこれに介入してこないから、難易度は大きく下がるはずだ。一応、プランはある。あとはそれを実行可能なものに引き上げるだけだ」

『了解しました。では、作戦の立案を開始します』


イフテの号令に合わせて、《ノルネ》のコンピューターがその持てるパワーを発揮し始めた。

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