第7話

操作の練習をしつつ航行すること6時間。ついに俺は《mtl-01》へと到着した。

ネットワーク圏内に入るや否や、すぐに通信が飛んでくる。


『こちらこちらテインツ帝国軍コロニー《mtl-01》ctb-27コロニー支部発着管理官、レイカン一等兵。貴艦の名称・乗員・所属・目的を問う。なお、この通信に返答がない場合、貴艦を捕縛する』

「......こちらは小型戦闘艦《ノルネ》。乗員は1名、艦長のレフラス。所属は輸送ギルド......フラッグはなし。目的はクエストの達成」

『............む?登録とは船が違うようだが』

「登録していた船は墜落し、偶然この船を取得した』

『......なるほど、古代船か。うらやま......ごほん。では、この場で船のID登録をする。登録には10,000cogが必要だが』

「すぐに払う」


俺はパーソナルデバイスを起動して、軍宛てに10,000cogを送金する。


『確認が取れた。では、ハンガーNo.29-24へと着艦せよ。クエストの達成報酬として三日間は無料だが、それ以降はハンガー使用料がかかることに注意されたし。レイカン、アウト』


通信が切れた。とりあえず、なにも問題は起きなかった。

俺はそろそろと船を動かして、ハンガーを目指す。ネットワークから位置を確認すると、ちょうど一番外側だった。何か悪いことをしでかしたときにすぐに逃げられる位置だ。


船をロッキングし、通路からコロニーの中へと入る。

なんだか、やけに警備が多い。何か事件でも起きたのだろうか......と街を見渡し、俺はレタミカル星系の近くで貴族同士の結婚式が執り行われる予定があることを思い出した。

どうやら、ここがその星系だったらしい。


輸送ギルドでも、警戒の一環か酒場が閉ざされていた。......別に、酒場を開いてもそこまで治安に影響は出ないと思うが。

事務スペースの端末へとパーソナルデバイスをかざす。空いていたようで、すぐに個室へと通された。


「こんにちは。本日はどのようなご用件で?」

「クエストの達成報告と、それから脱退の申請をしに来た」


もちろん、冒険者ギルドに登録するためである。


「かしこまりました。では、クエストの達成状況を調べますのでホロコードをどうぞ」


パーソナルデバイスを操作し、輸送ギルドアプリから三次元コードを呼び出す。部屋に設置された読み取り機ですぐに解析され、受付嬢のあやつる端末に俺の情報が表示される。


「指名依頼の達成が一件。報酬は......え、2億cog!?......失礼しました。そして、次に脱退の手続き......しょ、少々お待ちください」


受付嬢は顔をさーっと青ざめさせて奥に引っ込んでいった。3分ほどして、奥から老婆が一人出てくる。胸には、ギルドマスターと書かれていた。


「あー、考え直す気はないかね?」

「船が変わったから、輸送を本業にするのは割りに合わないんだ」

「ふむ......。だがな。お前さんは、輸送ギルドにとっては貴重な人材なのだよ。真面目に働き、信用も高く、職業意識も高く、貴族の依頼を受けた経験も多kさんある......おまけにソロというのもポイントが高い」


褒められて、ちょっと嬉しい。10年間も真面目に休みなしで働き続けてきた甲斐があったというものだ。


「まあ、そう言ってくれるのは嬉しいけど......脱退の意思は変わらない」

「うーむ、そうか。......では、脱退手続きを。ついでに、冒険者ギルドへの紹介状もつけてやってくれ」

「よ、よろしいんですか?」


受付嬢が端末を見て戦々恐々としながらそう言った。

––––一体、どんなことが書かれているのか、ものすごく気になる。


「かまわん」

「わかりました......では、手続きを」


受付嬢は端末を操作する。数分後、ぴこんと俺のパーソナルデバイスに着信が。輸送ギルド脱退の完了通知と、紹介状を受け取った旨の通知だった。


「ありがとうございました」

「ふむ。幸運を......あるいは、因果を......とでもいうべきかな?ではな」


最後に謎めいたことをいって老婆は奥へと去っていった。

因果を......まさか、このお守りのマークのことを何か知っているのだろうか......


ともあれ、俺は十年間活動してきた輸送ギルドを後にした。次に向かうのは、冒険者ギルドだ。そして、そのあとは買い物だ。


少なくとも、弾薬類や服(ほとんど我が愛船とともに燃え尽きてしまった)、食料品(《ノルネ》の中には全くなかった。あっても到底食べる気にはなれなかったと思うが)を買わなければならない。俺は期待に胸を膨らませつつ、一歩踏み出した。

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