第5話

現代の宇宙船はほとんどすべてが古代の遺物からの劣化コピーである。シールド、ビーム砲、エンジン、ありとあらゆる技術が遺物から劣化コピーされ使われている。唯一人類自力で発明したものがハイパードライブ......と言われているが、これも元となった遺物があるのではという説がまことしやかにささやかれている。


そして、古代船というのは残っている数も少なく、完全な船はもっと少ない。一部の冒険者ギルドのランカーが持っているか、あるいは帝国の研究所にある程度だ。


俺は目の前の船をしげしげと観察する。長めの円柱に三角柱を後ろから差し込み、全体的に丸みをつけた......というのが、大まかなフォルムだ。船の上には戦艦の副砲レベルの大きなビーム砲が日本伸びている。なかなかに狂った構造だ。理由は後述するが。


背後に回ると、フラップ式のハッチが開けっぱなしになっていた。俺は暗闇の宇宙船をライトを照らしながら中に入る。この船は三階構造のようだ。ただ、エネルギーが通っていないからか、どの扉も開かないので、それぞれどこに何があるかはわからなかった。


唯一空いていたドアは––––そう、コックピッドの入り口である。

空中に二つ、床に四つの席が設けられている。空中の二つがメインパイロット席用、そしてメインオペレーター用だろう。

本来は無重力にして泳いでいくか、あるいは席を動かして何とかするのだろうが......あいにく、エネルギーが通っていないため無理である。

俺は支柱をよじのぼって、なんとかコックピッド席まで辿り着く。


––––どうやって起動すればいいのかわからない。いや、そもそもエネルギーが残っているかもわからない。


困った俺は、とりあえずコンソールのパネルにタッチした。


ブウン。


モニタがそう唸りをあげて、触れたところから波紋が広がった。


『×××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××』


見たこともない言語が表示される。形は、どこかあの部屋にあった書類の文字と似ているような気がした。


『×××××××××......××××××××××××.......××××××××××××××××××』


表示がなされ、ぶつんと画面が切れた。


––––もしかして無理か?


そう思うも、杞憂だった。上から下へものすごい勢いで記号が流れていき......そして、徐々に俺の知っている言語が混ざり始める。記号の洪水が終わったときには、すべて俺の知っている文字だった。


『......再起動終了。音声構築......完了。船体状況確認......故障確認できず。メンテナンス用ナノマシンを起動......完了。音声・映像ファイルを起動します』


「やあ諸君!」

「どわ!」


いきなり画面に人の顔の大アップが表示され、俺はのけぞった。


『ご機嫌はいかがかね?私は××××。宇宙に名だたる......はちょっと盛ったな。まあ、一介の科学者だ。......未来に科学の概念があるかはわからんがね』


名前の部分は聞き取れなかった。多分、俺たちが使っているものとは根本から違う言語なのだろう。


『この船は、×××××ノルネ......私がもてる技術の全てを使って作った船だ。搭載されているAI《イフテ》からエンジンまで、すべて私が設計したものだ』


AI......ロストテクノロジーの一つだ。完全なる人格をもったAIは、いまだに作れていない。どうしても、ただの真似をしているだけのロボットになってしまうのだ。


『そして、その本質は......いまだ未完成ということだ。私は、この船の強化パーツを、銀河の各地に残した。いずれも、数百万年は残るとされている星系だ。ちなみに、その情報もイフテの内部にあるが......プロテクトをかけておいたから、いくらイフテとは言えすぐに解錠するのは無理だろうな』

「............」


それを巡って強化していけ......ということか。

俺は自分のなかにワクワクが迫り上がってくるのを感じる。


『まあ、がんばりたまえ。ではな。久々に長時間話して疲れた』


ぶちっと映像が切れた。

なんというか、メッセージビデオを作ろうとしたはいいものの途中で飽きたみたいな風だ。もちろん、真相なんて分からないが......

......と、今度は女性の人工音声が響いてきた。


『おはようございます、キャプテン・エフタル。私はこの船を統括するAI、イフテと申します。よろしくお願いします』

「よろしく」


キャプテン・エフタル......キャプテンか。ふふふ。なかなかいい響きだ。一度もクルーがいる体験をしたことがない俺にとって、キャプテンと呼ばれるのは未知の体験である。


「......ちなみに、言語とか俺の名前とかってどうやって知ったんだ?」

『お使いのデバイスをハッキングし、全データをコピーして解析、言語として習得いたしました』


結構......というか、帝国で最も強力なセキュリティーがパーソナルデバイスにはかかっているはずなのだが......古代文明のAIにとっては、どうやら関係なかったらしい。


「では、俺の状況も理解しているか?」


俺は次の質問をイフテに投げた。


『はい。ハイパースペースを航行中、渦に巻き込まれ、この惑星の重力に囚われて緊急脱出したとのデータがありました』

「よし。それで......帰れるか?』


俺は答えが聞くのが怖くなりつつも、思い切って聞く。イフテの答えは、


『はい』


という肯定の返事だった。

俺はふーっと息をはく。よし。よしよし。


『ハイパースペースの渦を逆に辿ることで、戻ることが可能だと思われます。星系がいくつかずれる可能性はありますが、些細な問題と判断します』

「じゃあ、早速出発しよう。......と、その前に、ちょっと回収してくるものがある」


研究所の中にあった、腕やオブジェ、そして資料を回収してこなくてはならない。


『了解いたしました。システムチェックをしてお待ちしております』

「頼む」

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