第4話
ひとまず、俺は壁に沿って歩いてみることにした。大きな木が生い茂っていて歩きにくいが、文句は言ってられない。
くるっと角を曲がったところで、入り口を発見した。
......いや、入り口というよりは侵入口といったほうが正しいか。
テアミカド合金で作られているはずの壁に、木の根っこに貫かれた跡があった。どうやら貫いた木はもうすでに分解されてしまったようで、今は根っこの代わりに土が詰まっていた。
侵入口の大きさは直径75cmほど。俺は手でかき分けるようにして土を掘り開いたスペースから剣が突っかからないようにしつつ中に入って探索を進める。
15m・15mの大きさの建物に、10の小部屋が配置されている。小部屋にはそれぞれ机や棚なんかの大型家具が配置されているが、それ以外には何もなかった。
まるで一つ一つの部屋が宇宙船のようだ––––というのが、俺の感想である。
まず、窓がない。宇宙船も、放射線の侵入をふせぐため、そして強度が落ちることを避けるため、コックピッド以外に窓がない。
次に、一つ一つの部屋が異常に機密性が高い。小部屋のドアを閉めて、俺がボディスーツの設定を操作して外に二酸化炭素を放出してみたところ、部屋の二酸化炭素濃度が変化し、放出をやめてもそのままだった。ドアを閉じただけこの気密性は、はっきり言って異常である。
そして最後に、固定された家具である。宇宙船では大抵、家具は移動した時に動かないよう、固定されているものだ。もし何らかの拍子で慣性制御が切れ、部屋を家具が飛び回るようになったら極めて危険だからだ。
俺はパーソナルデバイスのメモパッドとメジャーアプリを駆使して、建物の見取り図を書いていく。そして、建物の中心部分、約1平方メートルが空白になっていることに気がついた。
部屋の巧妙な配置のせいで、一周回っただけでは全く気がつかなかった。俺は早速空白部分に隣接する部屋を巡って、何か手がかりがないか確かめていく。
そして数時間の苦闘の末、ようやく地下への入り口を発見した。
一見、ただの壁のように見えるが、押してみると外側に倒れる......まあ、ありきたりな仕組みである。
ただ、難易度は鬼だった。
まず、力が必要だ。俺のボディスーツのパワーを全開にしてなんとか、といったところだから、大体1トンぐらいの力が必要だったのではないかと推測できる。
そして、古代文明の技術のおかげか、まったく壁に継ぎ目がない。たとえパーソナルデバイスのルーペアプリを駆使して観察しても、全く見つけられないほどだ。
中には下へと続く穴があった。覗き込むと、所々にセキュリュティシステムなのであろう銃口がある。試しに剣を手近の銃口にかざしてみる......しかし、特に何も起きない。もうその役割を失っているようだ。
俺は大丈夫だよな?と自問自答しつつ、暗闇に設置された梯子を辿って下へと降りていく。これでセンサー式だったりしたら俺の人生終了だが.......幸いにも、俺は何とか梯子の下へとたどり着いた。
そこはどうやら研究室のようだった。
大きな一人用の机に椅子、そして書類がたくさん詰まった棚。
不思議とデバイス類は全くないが、おそらく持ち主が持っていったのだろう。
––––ん?
俺は書類のたくさん詰まった棚のスペースの一部がぽっかりと不自然に開いていることに気付く。近寄って見てみると、そこには二つのものがあった。
立方体のフレームに幾つかの球が入った謎のオブジェ、そして精巧に人間のそれに合わせて作られた右腕だ。右腕に触れてみると、まるで肌のように柔らかい感触で指を押し返してきた。
––––意味のわからない組み合わせだ。
俺は首を傾げつつ、次に隣の適当な書類を抜き出してみる。
––––読めない。
何を書いてあるか、さっぱりわからない。パーソナルデバイスに入っている翻訳アプリでスキャンしてみるも、全く歯が立たなかった。
どうも、未知の言語で書かれているようだ。
まあこれだけの量があれば、それなりの性能のコンピュータを使えばすぐに解析できるはずだ......多分。残念ながらパーソナルデバイスでは無理だが。
俺は書類を置いて、部屋をぐるりと一周する。
そして、ふと違和感を覚えた場所をじーっとみつめる。
そして、一つの扉を見つけた。視界には入っていたはずなのに、まるで意識から除外されたように目立たなかった。おそらく、これも古代文明の技術の一つなのだろう。建築のデザイン一つで、人の意識を操ってしまう......という類の。
開けて確かめてみると、下へと続く梯子があった。こちらには、特にセキュリティがかかっていないようだ。気づいてないだけかもしれないが。
俺は一応剣をかざしてみてから、おそるおそる降りてみる。すると––––
そこには、優美な宇宙船が鎮座していた
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