お守り編

第1話

二日後。

俺はレタミカル星系の第三惑星へと到着した。惑星の通信範囲内に入ったら、すぐに軍から通信が飛んでくる。なかなか勤勉な軍だ。


『こちらテインツ帝国軍レタミカル星系第三惑星支部発着管理官、レント一等兵。貴艦の名称・乗員・所属・目的を問う。なお、この通信に返答がない場合、貴艦を捕縛する』

「......こちらは小型輸送船"エイダ"。乗員は1名、艦長のレフラス。所属は輸送ギルド......フラッグはなし。クエストの一環で、伯爵に面会しに来た」

『......了解。すぐに通信を変わりますので、少々お待ちを」


おや。特別に案内してくれるパターンか。


『通信変わった。こちら帝国軍レタミカル星系第三惑星支部司令官、ハインツである』


司令官とは、かなりの大物が出てきた。帝国軍の中でも、上から数えた方が早いほどの大物だ。

......とは言っても惑星の司令官ということは、もうそれ以上の出世は望めそうにはないが。惑星の軍というのはよっぽどのこと––––例えば、惑星で反貴族の暴動が発生したとか––––がなければ動かないことの方が多く、それゆえ軍功も立てにくのだ。 


ちなみに、この世界の文明レベル4以上の惑星は、現地の統治機構にに政治を丸投げ......ではなく委託されている場合が多い。惑星に別の王がいる場合も多い。

まあ、反帝国派が王になったり、戦争が起きそうになったりするとと即座に貴族や帝国による介入が入るのだが......


『貴艦は、軍用飛行場へと着艦してくれ。もちろん、使用料は無料だ。こちらで整備も受け持とう......見られて嫌なものは、今のうちに宇宙へ投棄することをお勧めする。現在、そちらへ迎えをやっているので、指示に従うように。ハインツ、アウト』


一方的に通信が切られた。俺はレーダーの感度を強めて接近する艦隊がないかを確かめる。すると、巡洋艦一隻、駆逐艦二隻、戦闘艇五隻からなるものものしい部隊が接近してきていた。

と、そのものものしい部隊から通信が入る。


『こちら、レタミカル星系第三惑星支部第一大隊第二機動部隊です。貴艦を軍用飛行場へと誘導します』

「こちら小型輸送船《エイダ》。了解です。よろしくお願いします」

『はい、ではモードを編隊モードにし、こちらに申請を出してください。......はい、来ました。承認したので、これよりあなたの艦は私の舞台に編成されます。アウト』


通信が切られた。俺はスロットルと舵から手を離して背もたれに背を預ける。

編隊モードにしたので、俺が操縦しなくても自動で部隊長の船の動きに同期してくれるのだ。


三十分後、俺はレタミカル星系第三惑星の軌道ステーションにへと船を止めた。

軌道ステーションとは、惑星の静止軌道上に作られた建造物のことだ。惑星の地上とエレベーターで接続されていて、大抵の宇宙船はここから発着することになる。

宇宙船の発着場や、物資の集積場、軍事基地などが上に乗っていて、ここだけで一つの都市になっている......まあ、軍人を除いてはかなり限られた人しか住めないが。


俺が今いるのが、その軍事基地の中にある飛行場である。周りは最新の軍用装備でフルカスタムされた軍用機ばかりなので、場違い感が凄まじい。

––––俺もいつか、あんな船を......


人知れず決意を固めて燃え滾っていると、不意にどこからかざっざっざっと足音が聞こえてくる。音の方を見ると、5人くらいの軍人がこちらへ行進してきていた。


軍人たちは前に一人、後ろに4人のフォーメーションになる。前の一人は、結構な数の勲章を胸に身につけていた。


「帝国軍レタミカル星系第三惑星支部司令官、ハインツである。レフラスで、間違いないか?」

「はい、輸送ギルド所属、レフラスと申します」

「うむ。貴殿にはこれより、軌道エレベーターで下に降りて、侯爵に面会してもらう」

「了解しました」

「案内のものが時期に来るであろう。では、この惑星を頼むよ。行くぞ!」


––––この惑星?

やたらと大きな目的語に困惑する俺を置いて、軍人たちは去っていった。

しばしぼーっとその場でたたずんでいると。


「侯爵家に務める秘書メイド、ファネスと申します。お迎えにあがりました」

「うわ!」


背後から、しかも至近距離の言葉に俺は慌ててその場から飛び退く。

振り向くと、輸送船エイダの入り口にメイド服を着た女性が立っていた。俺はエイダの入り口に立っていたので、そんなところにいるはずがないのだが......いつの間に。


「あら。いい反応ですね。ですが、少し油断しすぎですよ?」

「............」


いけしゃあしゃあとそう宣うファネスに、俺は閉口する。


「では、いきましょう」


俺は色々と諦めて、歩き出したファネスに追随した。


エレベーターの外壁はは透明な物質でできていて、外が覗けるようになっている。ちょうど、以上に大きな白い塊––––確か雲とかいうんだったか––––が、大きな渦を巻いているのが見える。中心には、ぽっかりと穴が開いていた。


「......まさか、あれをなんとかしろと?」

「一体どういう想像をされているのかはわかりませんが......あれは台風といって、別に怪獣ではありませんよ?......ですが、まあ......あながち間違ってはいませんか。詳細は侯爵にお聞きください」


訳がわからなかったが、俺はそこから先は聞かなかった。

どうせ後で聞くことになるんだし、今聞く必要はない。


「あちらについたら、一時間ほどの待機が必要なようです。侯爵閣下は色々とお話も聞きたいそうなので、準備をしておくことをおすすめしますよ」


なるほど、ついでに吟遊詩人のようなこともしろ、ということらしい。

俺は滅多に見ることのないハビタブルゾーンにある惑星の景色をながめながら、はてなんの話をしようか、としばし思考に没頭した。

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