第3話

世間話もそこそこに、話題は思い出へと移り変わっていく。昔の友と食事する時の話題は、思い出話と相場が決まっているものだ。


「......にしても、驚いたよな。あれだけ冒険者になって成り上がるーなんていってたお前が、運び屋になったなんて聞いた時は」


同じコロニーの同級生であるアンツはそう言ってぐびっと酒を飲む。


「今でも後悔してないさ。あのまま冒険者になってても、とっくに宇宙の藻屑になってる。まずは、宇宙の何たるかをかじらないと」

「全く。変なところで慎重なやつだよな......」

「そういうお前こそ、この仕事運び屋になるって聞いた時は驚いたぞ。頑張って働いて可愛い奥さんをもらうんだ〜とか言ってたくせに」

「......受付嬢には、可愛い子が多いだろ?」


そういうとアンツは悲しい顔をした。何を隠そう、浮気してクビになった受付嬢と結婚していたのがこいつだ。あの時は、流石の俺もブチ切れた。


「まあ、まだ諦めてないさ」

「だったらもっと真面目に仕事しろよ」

「これも仕事さ。今度、フラッグに入る予定なんだよ」


それは初耳だ。


「ほーん。可愛い子がいたのか?」

「まあな。つっても、既婚者だけどな」

「おい、まさか......」


俺はきびしい目をアンツに向ける。


「いや、違うから。ほら、可愛い子には可愛い子が集まってくるだろ?」

「............」


俺は肩をすくめた。

類は友を呼ぶ理論でいくのなら、既婚者には既婚者が集まってくると思うのだが......まあ、こいつがそう思うのならそれでいいだろう。


「ま、心配するなって。もう行くか?」

「ああ。次はいつ会えるかわからないが、元気でいろよ」

「はいよ。奢りありがとな」


俺は手をふって酒場を後にし、やることもないので船に戻った。

パイロットチェアへと体を固定し、パーソナルデバイスをコックピッドのコンソールに接続する。そして、クエストの詳細をディスプレイに読み出した。


レタミカル星系第三惑星に居住するサイラス侯爵に会いにいけ......とまあ、大体そんな感じだ。報酬は、なんと前払いで1,000,000cog(作者注・約100万円。この世界のお金の単位はcog–coin of galaxy。言いにくいので口語では単位は省略されるのが基本である。日本円との概算レートは、約1cog=1円)。破格の報酬だ。


俺はレタミカル星系周辺のデータをダウンロードしつつ、ざっと最近のニュースを閲覧する。4つ離れた星系で貴族同士の結婚式があるくらいで、至って平和な宙域だ。ダウンロードが終わったのを確認し、俺は船のシステムチェックと状態チェックを同時並行で行う。


そして、ディスプレイに《No Error》と表示されたのを確かめてから、発着管理官へと通信をかけた。


『こちらテインツ帝国軍ctb-27コロニー支部発着管理官、セドアー一等兵』

「こちらは小型輸送船"エイダ"。乗員は1名、艦長のレフラス。所属は輸送ギルド......フラッグはなし。発艦の許可を請う」

『......もうか?勤勉だな。えー、クエストの完了につき使用料はなし。ハンガー内の出入り記録をチェック......よし、確認終了。行っていいぞ』

「どうも」


俺はハンガーのシステムにアクセスしてハンガー内の空気を抜き、船を固定しているロッキングシステムを解除する。

がこん、という音が響いたのを確認して、俺はスロットルを引いてハンガーから出て宇宙へと飛び出た。


10分ぐらい経ってコロニーから十分離れたところで、ハイパードライブを起動する。ハイパードライブは、人間の最も偉大と言われる発明だ。宇宙空間での光速を超える移動を可能にする、まさに夢の機械だ。


原理は、「宇宙を絶対値ではなく相対値で測って距離を縮める」というものである。ハイパードライブとは、宇宙船の絶対値を維持しつつ距離を相対化するハイパースペースに入ることで、擬似的な超光速移動を可能にするシステムのことである。実際には光の速度を超えているわけではない。


ハイパードライブはもちろん距離と方角を入力することでも移動が可能だが、大体はハイパースペースの開拓を生業としている冒険者が記録したデータを元に航行するのが普通だ。それらのデータを集積しているのが、冒険者ギルドである。輸送ギルドなどは、冒険者ギルドと契約してデータを融通してもらっている。


俺はレイラが送信してくれたデータの中からハイパードライブのデータをコピーする。これで後は自動で目的地まで連れて行ってくれる。


一瞬、星の虹スターボウが後ろに流れた......と思ったら、もうそこはハイパースペースだ。

周りには、酩酊感を与える不可思議な景色が広がっている。光の速度より早く移動しているはずなのに景色が真っ暗ではないーこれが、”光の速度を超えているわけではない”ということの証明だ。ちなみに、なんでこんな景色になるのかはいまだわかっていないらしい。


俺はコックピッドのシャッターを下ろして、コンソールをいじる。まずは、レイラが送ってくれたデータとさっき収集したデータの確認をしなければ。

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