第9話~三将~
1560年8月
浅井から戻らぬばかりか、嫁として一緒に向かったはずの、平井の娘を送り返された六角は激怒しました。
早速、浅井を討つべく立ち上がった六角と、それを見越していた浅井長政軍は、野良田の地に於いて、合戦を繰り広げる事になりました。
これが、のちの野良田の戦いです。
ここで、浅井長政軍は見事に六角軍を打ち破り、ここに浅井家は、六角から解き放たれたのでありました。
*
その日、小野殿と長政の元に、家臣である赤尾清綱、海北綱親、雨森清貞の三人がやってきました。
彼らは亮政時代からの重臣で、頭文字から「赤海雨の三将」と呼ばれる程に、浅井で力を持っておりました。
「阿古様、やっとこの時が参りました」
「本当に、どれだけ今まで煮え湯を飲まされてきた事か!!」
「これで晴れて、浅井家の時代がやってきたのでございます!!」
三者が口々に意気揚々と荒ぶると、小野殿は静かに頷きました。
「久政様は、戦が元々好きな方ではないからのう、今までそなた達には本当に苦労をかけた。これからはこの長政が浅井を立て直す。どうか、まだまだ若き長政を守ってやって下さい」
小野殿はそう言うと、三将に向かって深々と頭を下げたのでした。
「そんな滅相もない。長政様の野良田の戦いの活躍、それはそれはお見事でございました!家臣一同、長政様に忠誠を尽くす所存でございまする!」
赤尾清綱はガハハと豪快な笑い声をあげ、そして次の瞬間急に真顔になると、声を潜めて語り始めました。
「して………その時はいつ……」
暫くの沈黙の重い時間が流れた後、小野殿は三将の顔をゆっくりと見渡しました。
「今すぐに」
「御意」
その小野殿の言葉を聞くや否や、三将は立ち上がると部屋を荒々しく立ち去って行きました。
「母上、今すぐとは一体何が起こるのです」
事態を掴めずにいた長政が、母である小野殿に向かってそう尋ねました。
「本日で長政、そなたが浅井の家督を継ぎ、正式に浅井家当主となる」
「当主?父上からは何も聞いてはおりませぬ」
「大方様より指示があった。本日がどうも吉日らしい」
「大方様?それは一体どなたなのです……」
「浅井千代鶴様、そなたの大母様よ」
「大母様が……?しかし、大母様は既に亡くなって久しいと聞いておりまする」
「夢見よ……」
「夢見………?」
「大方様は今も竹生島で、この浅井の守り神である浅井姫様や、大弁財天様との架け橋になってくれておる。そのお告げをこの母に、夢の中で伝えてきてくれるのだ」
「なるほど………」
長政は懐から、先日蔵屋から渡された千代鶴の数珠を取り出すと、その手で強く握りしめました。
「今から久政様を竹生島に送る。その手筈はもう既に整っておる。これで晴れてそなたが、浅井家当主、浅井長政となるのだ」
「父上を島に!?」
島に流すのは、罪人にする仕打ち。長政は母の計画を恐ろしく感じ始めていました。
「心配はいらぬ。いずれ、此方に戻ってくる事になろう、久政様は元々とても穏やかな優しい方なのだ。大好きな山菜採りが出来る竹生島での生活は、決して悪いものではないはず。それに………」
「それに?」
「大弁財天様がご所望なのだ。これは、何人たりとも逆らう事は出来ぬ」
長政は母から語られる言葉に困惑しながら、当主となる事を自覚せずにはいられませんでした。
*
三将の働きで、城へ入る事を阻まれた久政は、その日のうちに船で竹生島へ幽閉される事になりました。
ここに、浅井家新当主となる浅井長政が誕生したのです。
利発な長政を家臣達は慕い、様々な改革が実行されていく事になりました。
その頃、敵対していた京極家、京極高吉と和睦の話が持ち上がっていました。
蔵屋と小野殿は、この高吉の再婚相手で、長政の姉である於慶を嫁がせる事にしました。
於慶と高吉は親子以上の歳の差がありましたが、於慶は「自分もやっと浅井の為になる事が出来る」と喜び、京極家へと嫁いでいったのでした。
高吉と於慶は政略結婚でありながら、とても夫婦仲は良く、その後子も授かる事になります。
そして、キリスト教と出会い、夫婦で洗礼を受け於慶は京極マリアと名乗る事になるのですが、それはまた、先の先のお話。
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