第7話 孤独

 いつものファイルと同じく、各シートの写真の上には6桁の数字が書いてあったが、最初の5桁が00000で最後の6桁目の数字が1から9になっている。

見た感じでは男が4人と女が5人。他のファイルに綴じられていたシートと違って説明文は特になかった。写真だけで判断しているので男女比も違うのかもしれない。

全てのシートに目を通したが、その中でも一人の女性の写真に心を惹かれた。年代的には僕と同じくらいのように見える。きれいな長めの黒髪で、目の表情がとてもやさしくて魅力的だった。


 写真を眺めていると実際に会って話してみたいという衝動に駆られた。

 

 しかしすぐにそのナンバーを打ちこむことはしなかった。僕には迷いがあったのだ。今までファイルに生物の記載がなかったという事は、何らかの問題が起こる可能性があるのかもしれない。もし問題なく彼女がプリントアウトできたとしても、記憶や人格はどうなっているのだろう。もし自我があったとしてこの閉ざされた空間が気に入らなかった場合、彼女はどうするだろう・・・。僕の事をひどく恨むかもしれない。更にはもし二人が喧嘩をしてしまったらどうなるのか・・・、この閉じた空間には逃げ場もないのでどうにもならない。生を全うしない限りは立ち去る事は許されそうにない。


 踏ん切りがつかないまま、更に数か月が過ぎた。

着たい服を着て、食べたいものを食べて、昼間から酒を飲んだりゲームをしたり、およそ労働というものとは無縁の生活は快適そのものだった。他人とのコミュニケーションでいらぬ気使いをする必要もない。


 ただ不思議なものでそんな何の不満もない生活を送っていても、あのファイルを見つけて以来、時にはひどい孤独感に襲われるようになった。以前僕のいた時代では引きこもりが社会問題になったことを記憶しているが、彼らは数年以上もこんな孤独と向き合っていたのだろうか。但し直接他者と顔を合わせなくても、ネットなどを通じて自分以外の人間とはコミュニケーションを交わしていたはずだ。ここではそれすらもできない。


 繰り返し襲ってくる孤独感に、いつしか僕は誰かと話したくて仕方がないという精神状態になり、最後にはその欲望に負けてしまった。


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