第6話 生物
時間だけは有り余るほどにあるので、棚に置いてあったファイルに綴じてあるものは、全てを出力こそしていないものの、もう殆ど目を通してしまった。その中で少し疑問に思うことがあった。ファイルには生物の記載がなかったことだ。
銀座の有名店の寿司など、魚の身は新鮮でたまらなくおいしかった。
ただ、刺身は出力できても生きた魚の記載は無かった。一時、犬か猫でもいたらいいなと思って探してみたこともあるが、それもどこにも無い。植物ですら載っていなかった。
納豆やヨーグルトなどの発酵食品は、本来であれば中で細菌が生きているはずだし、人間の体も細胞の数以上の細菌と絶えず共生しているはずだ。不思議に思って顕微鏡をプリントアウトして、色々なものを拡大して見たりもしたが、動くものの姿はそこにはなかった。
まるで自分だけがこの世界で生きているようなそんな感情に襲われると、以前は煩わしいとさえ思うこともあった人間関係を懐かしく感じる自分がいた。
そんな時に他のファイルより一まわり小さくて薄いこのファイルを偶然見つけたのだった。
最初に目覚めたカプセルの頭のクッション部分は取り外せるようになっていた。寝具はコットと呼ばれる組み立て式の簡易ベッドと寝袋を使っていたのだが、どうにも納得のいく枕が無かった。最初に目覚めたカプセルの、頭部のクッションの具合の良さが記憶に残っていたので、外して使えないものかと動かしてみたら分離することができた。するとその下には隙間があって、そこに薄いファイルが隠れていた。いつものファイルよりは小さくて、昔あったポケットアルバムはこんな大きさだったと思う。
ファイルの中には何人かの人間の写真が載っていた。
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