第5話 材料

 そんなこんなで目覚めてから数か月が過ぎたが、この空間・・・部屋の中で僕は何の不自由もなく暮らすことができた。ただ、相変わらず誰からも何の説明もない。

最初のうちは、過去から未来へ来てしまったのだから、隔離期間のようなものがあるのかもしれないなと思ったが、それなら最初に何らかの説明があってもよさそうなものだ。


 3Dプリンター向けのファイルがあるならば、状況説明の書かれた書面もどこかに置いてありそうなものだが、今の所それも見当たらない。


 テレビもラジオの放送を受信することはもちろん出来なかったが、昔のビデオや映画を見ることはできた。懐かしい作品もあれば、僕の知らない時代の作品もあった。それらを見れば自分が生きた時代を振り返ったり、その先の風俗や技術も知ることができてとても興味深かった。ただ自分が眠りについてからの数十年では、思ったほどに生活様式の変化は無かったようだ。


 この3Dプリンターの技術に関しても一切出てこなかった。この技術はさらにもっと先のものなのだろう。また、現在の状況の説明に繋がりそうな情報もそこには見当たらなかった。


 情報が無いだけにふと考えてしまう。そもそもこのプリンターの動力源はどうなっているのだろう?部屋全体の空調や照明も考えれば、見えている空間の外部からなんらかのエネルギーが供給されているのは間違いない。


 更に物質を出力する為には、なにかしらの材料が必要なはずだ。ここまでの再現性を成立させるには、分子レベルでの生成が必要な気がする。分子構造は多岐にわたるので、原材料としてストックするのであれば原子という事になるのだろうか?もしかしたら原子自体も変換や生成できる技術があるのかもしれない。そこまで進んだ技術があれば、廃棄物に関しても分子、或いは原子レベルまで分解して再利用していると考えるのが妥当だろう。


 しかし物質をいくらリサイクルしても、エネルギー源は有限であるだろうから、永久に継続するシステムというのは、そもそもが実現不可能な気もする。但し、ここまで進んだ技術で運用されているのであれば、自分が生きている間くらいは何ら問題は無さそうにも感じた。


 いくら考えても理解の範疇を超えているし、現状も将来に関しても知る術がないので、いつしか僕は考えることをやめ、ただひたすらにこの3Dプリンターでの生活を満喫するようになっていった。


 そんな生活が続いたある日、僕は偶然あるファイルを見つけてしまった。






 

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