第4話 塵芥
その後も空腹やのどの渇きを覚えるたびに、色々なものを出力した。
どれも完璧な再現性で、この3Dプリンターがあれば飲食に困ることは無さそうだった。
飲料も色々なものが出力できたし、水はペットボトル入りのものが出せた。
ただし調理品とは違って、容器に密封された飲料は常温で出てきたので、自分好みの温度にする必要があった。そこで小型の冷蔵庫と、ついでに本当の電子レンジも出力した。コンセントは部屋の中には見当たらなかったが、ファイルの中には家電のコンセントを刺せる電源ユニットも載っていて、それらの動作に困ることは無かった。
また、料理に関しては、例えばかつ丼だけでも数種類が記載されていて、チェーン店から中には僕でも聞いたことのあるような有名店のものもあり、いくら何を食べても当分飽きることは無さそうだった。
ファイルには自分の生きていた時代のものもあれば、まだ実現していなかったであろうものも載っていた。電源ユニットなどはいい例だろう。小型発電機と違って大きな音を立てるでもなく、コンセントを差し込めばかなりの時間家電製品を使う事が出来た。この大きさで充電もせずにこれだけ長時間使えるバッテリーは、僕が知っている限りでは聞いたことがない。例えば小型の冷蔵庫やゲームを楽しむためのモニターやパソコン等、かなりのものを繋いでも数週間は平気で使える。出力時は満充電の状態で、電気の残量はモニターに表示されるので、容量が少なくなったところで新しいものをプリントアウトして、コンセントを繋ぎ変えればいい。役目を終えた古い電源は、何もしなくても床に吸い込まれていった。
給水と排水は接続先が見つからないので最初のうちはトイレに困った。汚い話だが排泄物の類も床に放置すれば、床に緩やかに吸い込まれていくので物理的には問題はなかった。ただそのような行為は、当然物心ついてからは習慣に無かったので気分のいいものではない。そこで下水に接続はできないものの、便器も出力して置くことにした。
水が溜まっているわけではないので、実際にはあまり意味はないが、そこで用を足せばその内容物だけが床に吸い込まれていくように中を細工してみた。不思議なのは内容物は床に吸い込まれても、便器はそこにとどまっていることだ。
これは廃棄物なんだなと感じるものがあればそれは吸い込まれていく。まだ使おうと思っているものは吸い込まれることは無い。僕の頭の中を誰かが読んでいるのか、第三者的なAIが判断しているのかは分からないが、食器の類や汚れた下着なども廃棄しようと思って放置しておけば、すべて床に吸い込まれていった。なので掃除も洗い物も何もする必要がなかった。
シャワーはキャンプ用のものを使った。ちょっと勿体ないが、水はペットボトル入りのミネラルウォーターを使う。お湯にしたいときは、電源ユニットに繋いだ電気ケトルで、お湯を沸かしてから水と混ぜて使った。排水は例のごとく床に吸い込まれていく。
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