第50話 作戦会議します。
ヴァンダルシア・ヴァファエリスにはストーリーや設定、世界観というものが存在している。
ゲーム性や、ランキングでの優劣、中にはガチャそのものをコンテンツとしていて、ストーリーをオマケ程度に考えているプレイヤーもいるという。
ただやはり私はRPGならストーリーも楽しんでこそだと思う。
ゲームキャラを強くしたり、レアアイテムを集めたりも大好きなのだが、それでも一番楽しみなのはメインストーリーのアップデートである。
今回挑むイベントダンジョン攻略は、立て付けとしてはストーリーに絡まないもので、サブクエスト的な位置づけとなる。
しかし実際には、サブクエストであっても同じ世界観の中で繰り広げられるもので、メインストーリーに対する理解度が高ければ、新規のイベントクエストについてもいち早く入っていける。
もちろんそれはサブクエストのストーリーを楽しむというだけの話ではなく、攻略においても重要なことだ。
イベント開始から始まる数行のフレーバーテキストは、読んでいなくても一見問題ないようなもの。
――そもそもフレーバーテキスト自体が、雰囲気作りのための文面を意味するのだから本来そこに必読な内容があってはおかしいのだろうけれど。
しかしヴァヴァの世界観を理解した上で読めば、ある程度今回のダンジョンがどのような内容なのか推測できる。
さらにダンジョン周辺のNPC達や、内部のいたる所に残された怪しげな古代文字やらなにやらを拾い集めることで、攻略そのものに有用な情報を得ることすらあるのだ。
以上の事情から、ヴァヴァの新規ダンジョン攻略イベントでは、ストーリーなど完全後回しの力押しで最速攻略を目指すグループと、ちりばめられた情報から最善な攻略を目指すグループに分かれる。
もちろん後者はさらに、先発組の攻略情報を元にして、さらに効率性や網羅性の高い攻略を目指す後乗り組もいる。
自分達で攻略するというよりも他のプレイヤー達の攻略情報を参考に安全な攻略が可能だ。
もちろん情報が集まるまではできない作戦方針でもあり、攻略までの時間も競うことになるイベントダンジョン攻略では最良になり得ないとされる方法でもあった。
私は一番イベント経験のあるアズキと、今回どういう作戦で行くか相談することにした。
合宿後の、お互いに一休みしたあと翌日に通話をしている。
『ユズはどうするつもり?』
「うーん……やっぱり、イベントで上位なのは……特に一桁入るパーティーって力押しばっかりなはずだよね」
『正確な採点方法はわからないけれど、攻略までの期間が一週間から十日を切るとかなりポイントに上乗せされているはず』
「十日かぁ。私達には厳しいよね」
おそらく一週間くらいぶっ続けでヴァヴァだけできるような廃人環境が、パーティー全員になければ難しい。
私も大学を休んでなんとかできなくもないけれど――いや、それでもつぎ込めるレアアイテムの差があるから、十位以内に入るのも十日でクリアするのも現実的じゃない。
「
『
「うん、えっと……私も一時期だけど所属してたからわかるけど、すごく強い人ばっかりだったし、チームとしてのまとまりもあったよ」
ギルドランクは、ヴァヴァで唯一恒常的に行われているランキングシステムだ。
ギルド間による拠点攻防戦でその順位が決まるのだけれど、中々に上級者向けのコンテンツで参加しているギルドも全体の二割くらいだろう。
ただやはり大々的に、公式で集計されたポイントで順位が発表されているわけで――ギルドランク一桁であれば、ヴァヴァの全ユーザーからトップギルドとして認識され、尊敬の念を持たれることになる。
――だから英哲グラン隊に関しては今でも憧れとか尊敬とかあるんだけど。
「多分、私が見た中でも鈴見さんはギルド内で一番プレイングスキルなかった。装備はかなりレアで固めてたけど、イベントダンジョン攻略のときはむしろ荷物になるタイプだと思う」
『僕も集められるの情報を調べた限りでは、同意。四人パーティーに一人あれが入るなら、他が上手くても期待できる順位はかなり下がる』
「去年の成績から……英哲グラン隊のメンバー四人だけのパーティーなら五十位より上には上に入るかもだけど、鈴見さん込みなら八十から百くらいなんじゃないかな」
『新規ダンジョンの攻略は運要素も多く絡むけれど、僕も大きくはズレない思う』
運要素――これは単純にゲーム内の乱数とかだけでもない。
もちろんボス戦でクリティカル攻撃の連発や、数パーセントしかない回避行動を成功させるなんかが起きればかなり有利ではあるけれど、もっと不確実な要素が多くある。
例えば――。
『英哲グラン隊のメンバーが安定した攻略方法を早期に発見する可能性もある。その場合は、鈴見総次郎のいるパーティーも六十位近くでクリアしても不思議ではない』
「だよねぇ……。うーん、英哲グラン隊の人達どうなんだろ、いたの一週間だけだし、周回しかしてないしな」
『何人か配信しているプレイヤーがいる。以前に新規ダンジョンの攻略配信もしていたけれど、細かい検証をするようなプレイングではなかった』
「それならまぁ、攻略方法確立は可能性低い……かな」
どんなダンジョンにも、これをやれば一気に攻略が安定する、みたいな方法が一つや二つはあるものだ。
運営がそもそも用意していてストーリーの断片から探れる場合もあるし、意図しない攻略方法で難関ダンジョンが一瞬にしてヌルゲーになってしまう場合だってある。
さすがにヴァヴァは人気ゲームだけあって、意図せずに難易度が崩壊するような攻略方が放置されていることはほとんどないけれど。
ただし細かくデータを解析して、確実な攻略方法を作り上げるプレイヤー達がいる。
多分アズキなんかはその傾向があると思う。
で、そういう面々は見たところ英哲グラン隊には多分いない――というかいたら困るわけだ。
ただまあ攻略方法を新しく見つけ出すのには、かなりの時間がかかる。
運良くかなり早いタイミングで見つかって、それをギルド内でのみ共有して……というかなり低い確率のことが起きなければ、鈴見総次郎のパーティーが攻略方法頼りでランキング上位に入ることはまずないだろう。
これはあくまで大まかな傾向だけれど、ギルド攻防戦はそれだけで一大コンテンツなので、そこの上位のギルドはあんまり他に時間のかかるプレイングをしないことが多い。
だからギルドランク八位の英哲グラン隊の面々は、一番力を入れているのがギルド攻防戦で、それ以外の余力で他のイベントやダンジョンの攻略をしていると見ていた。
と言ってもギルド攻防戦で八位に入る実力者集団なので、力押しでのイベント攻略でもかなり上位――五十位以内に入るのだから、本当に叶わない面々でもある。
ちなみに去年は、英哲グラン隊のギルドマスターが入っていたパーティーが確か三十二位だった。
鈴見総次郎の所属パーティーは英哲グラン隊のメンバーが二人、他のメンバーが一人で、九十五位。
「鈴見さんに勝てれば一旦いいとして、それなら……目標は八十位代かな。でも向こうが上振れすることもあるし、五十位代くらい目指したほうがいい? うーん……厳しいなぁ」
『五十位代なら、攻略までの期間だけでなく、細かい実績ポイントでも狙える順位』
「そっか、なら後発組の最前線くらいでいければいい? 攻略情報出て直ぐとか……でも攻略サイトとかに載ったらもう遅いしな……」
先発組の攻略情報や、ストーリーから読み取れる情報の考察が進んで、ある程度ダンジョン攻略の目処を立てて安全かつポイント重視で挑む――理想論だ。
情報が集まるタイミングはほとんど全プレイヤーで差がでない。だからポイント重視の攻略が狙えるタイミングというのは、始まったら最後そこからさらに泥沼な競争となってしまう。
もちろん独自にストーリー情報を読み取って、自分達だけの情報で攻略するということもできるが。――ストーリー、好きだけどあんまり考察とか得意なわけじゃないんだよね。
正直ヴァヴァのストーリーは、壮大すぎていまいちどこまで理解できているのか自信がない。他の人がまとめた考察を読んでそれっぽく納得して終わることの方がずっと多い。
――うーん、中々作戦がまとまらない。攻略サイトに載らないような情報を集めている人間が身近にいれば……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます