第18話 見返りを求められましたが。

 ノノから余った課金ガチャ装備をもらえるとすればどうだろうか。


 攻略情報を確認していないけれど、基本的に新規の課金ガチャからは、最近出たばかりのダンジョンが有利になる装備が手に入るはずだ。


 まだドロップアイテムを集めきっていないダンジョンを短時間で周回できれる。


 明確に他のプレイヤーと効率で差をつけられるわけだ。


 つまり端的に言えば、『喉から手が出るほどほしい』という一言に尽きる。


 でも余りとはいえ、課金して手に入れたアイテムである。それをもらっていいのか? けど断るのももったいないし。


 ――とりあえず、交換条件を聞こうかな。


「……交換条件、聞いてもいい?」


『うーん、そうだなぁ。ユズとデートとかしたいなぁ』


「で、デート……? 私と?」


『うんっ、一日二人で手をつないでー、ブラブラしてもいいし、遊園とか水族館とかもいいなぁ』


 私が、ノノと――国民的人気アイドル九条乃々花くじょう・ののかと一日デートをする。


「ダメでしょ! そんなの他の人に見つかったとき、変なニュースになるでしょ! アイドルの横にいる謎の一般人みたいになるって」


『んえー? そんなことないって、多少変装くらいするけど、みんな友達と普通に出かけるくらいしてるし』


「……そういうものなのかもしれないけど、私インドア派だし」


『アタシも普段はインドアだけど、ユズとならお外デートもいいかなーって思ったのに。ま、じゃあ違うのにするか』


 というかアイドルと並んで歩くのは、精神衛生上辛いものがある。頭身とかがそもそも違うのだから、あまり横に立ちたくないのだ。


『あのさ、えっと……例えばだけど、ほら、この前言ってたあれは?』


「あれ?」


 なにかもったいぶるようにノノが言うけれど、私は思い当たるものがない。この前言っていたのってなんだっけ。


『ほら、次二人っきり会ったらって話してたでしょ! オフ会の翌日話したとき』


「あー星屑成層ノ杖もらったときの」


『ユズ、アイテムのことしか覚えてないでしょ……』


「そんなことないよ? えっとあれだよね、あれ、次また二人で会いたいって話したような」


 そういえば会話の流れで適当に頷いていた気がする。たしかそのとき。


『次は、ベロチューもしよって言ったじゃん。……それ、交換条件でどうかな?』


「ええぇ!? あれ、やっぱり本気だったの?」


『もちろんっ! ね、ダメかな?』


「ダメって……だって、ほら私達、女の子同士だしキスって」


 異性相手だったら問題ないというわけではないので、これは断る建前でしかない。もし仮に異性が相手だったらもっと明確に拒絶していたと思う。


『いいじゃん! アタシとキスできて、レアアイテムももらえるなんてお得でしょ!!」


「ええぇ……いや、お得とかでキスってするもんなのかな……」


 ただよく考えるとルルに無理矢理されたキスって、あれはなにも見返りなかったな。それだったら課金装備もらえるキスくらい――みたいな打算的な考えが頭を巡っていた。


「キスかぁ。うーんどうしようかなぁ。まぁキスくらいなら……」


『待って待って。ユズ、アタシが要求して置いておかしいかもだけど、キスくらいってどういうこと? ……ぶっちゃけ、アタシも課金ガチャのダブりアイテムでキスは無理あるかなーって思ってからダメ元で言ってみただけなんだけど』


「え? そうなの? いや、キスの相場とかわからないし」


『相場はアタシもわかんないけど、……ユズもしかしてキスしなれてるの?』


 ノノの声は明らかに私を疑っていた。


 言われてみると、うら若き乙女としてはキスに対してもっと抵抗を見せるべきだったのかも知れない。

 まだ一回しただけだし、そもそもレアアイテムとの交換だからってホイホイしていいものなのか。


「……じゃあ、やっぱ別の条件で」


『ん? 条件変えるのはいいんだけど、それより質問に答えてほしいんだけどなー、ユズ?』


「ええぇ? いや、キスなんて全然経験ないって」


『全然ってなに!? ゼロなの!? ゼロじゃないの!? ちゃんと詳しく答えて!!』


 何故かノノが頑なに食いついてくる。


 どうなんだろう、嘘でもゼロと言えば満足させそうというのはなんとなく流れでわかる。ただ妙な嘘をついて、あとあとバレると問題になりそうだ。


 特に今回は、私自身よくわかっていないが私のキスがレアアイテムとの交換条件になっている。だったら私のキスの価値を偽るのはフェアじゃない。


「ゼロじゃない。一回だけしたことある」


『う、嘘……やっぱり……あぁ……萎える、いや、ごめん……本当でもテンション下がったから』


「そのリアクションはどうなの? だいたいノノさんは私のキスになにを見いだしてるの」


『んあーっ、だって初めてだったらもっとレアアイテム貢ごうって思ってたのに!! え、もう二回目なの!? ひどいっ、騙されたっ!!』


 騙していない。正直に言った。


 ――ただまあ、正直に言ってこれなので、嘘をついていたらバレた後もっと面倒になっていた可能性が高い。

 やっぱりはっきり言ってよかっただろう。


「だから文句あるなら別の条件にしてって」


『待ってよ!! で、でも二回目なのは本当なのよね!? ……だ、だったら今アタシが二回目もらわないと次はもっと後ってことでしょ!?』


「えええぇ!? 別に回数が増える予定はないけど」


『はい! その二回目確保しました! 乃々花ちゃん売約済みって張り紙してね。お代は……ま、やっぱ課金ガチャ装備一つだと安いし、三つあげる!!』


 ノノの太っ腹な提案に、文句はない。それどころか、そんなにもらっていいのか。という戸惑いのほうが強い。


 ただレアアイテムをもらう代償に、キスをしていいのか。姫プレイしてアイテムを貢いでもらうのとはわけが違うんじゃないのか。


「ごめん……でもさ、やっぱり、キスしてアイテムもらうっておかしくない? 私達の関係って対等なギルドメンバーだし、一応私はリーダーだけど、なんかキスでアイテムは変な関係って言うか」


『五つでもいいよ、一揃いであげる』


「絶対おかしいことだから、今回だけだよ?」


 課金ガチャ装備五つもらえるなら、キスくらいしてもいい。きっと神様も許してくれるだろう。


 ――これもすべては姫草打鍵工房のため、鈴見総次郎への復讐のためなのだっ!!

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