第19話 大事な約束をしました。
勢いでレアアイテムの報酬にキスすることを約束してしまった。
後悔と罪悪感はもちろんあるのだが、それ以上に頭の中でもらった課金ガチャ装備を使ってどう効率よく攻略するか考えてしまっている自分もいる。
情けない――でも、これでまた最強ギルドに一歩近づいた。
ノノと次に会う日を決めて、二人でそのまま少しダンジョンを周回していると、アズキからメッセージが来た。私個人宛てではなく、ギルドメッセージだ。
私とノノの二人で確認すると、良ければパーティーに参加したいということだった。
「どうする?」
『アズキかぁ。アタシはいいよ。アズキのことよくわからないけど……』
「私もまだよくわからないけど」
『ルルちゃんは可愛い感じだよね。アタシの好みとはちょっと違うけど、アイドルになったら人気でそ』
表面的な感想は私も同じだった。
だけど、ルルのこともまだ全然わからない。
そういう意味では、アイドルとしての活動ぶりを見聞きしている分ノノのことが一番わかっているのかもしれない。――もちろん、実際の彼女と私が見聞きした彼女はまた別物なんだろうけど。
私自身、ゲームとプライベートは分ける方針ではあるけれど、パーティーの連携を考えるなら多少お互いのことを知る必要もあるんだろうか。
とりあえずルルが裏でかなりノノを敵視している問題についてもどうにかしたい。多分原因は私なのも含めて、早急に対処すべきだ。
◆◇◆◇◆◇
アズキと合流してからしばらくして、ルルもパーティーに加わった。
ギルドで取り決めした集合日でもないのに、自然とみんなが集まってパーティーを組む流れは嬉しい。このままチームとしての連携も高まるといいのだけれど。
『ユズ、今度お店行きたい。
「え……本当にキーボード買ってくれるの? オンラインでも買えるけど」
アズキを姫草打鍵工房に呼ぶことは多少抵抗があった。オンラインゲームの知り合いを、自分の生活圏に招き入れる行為である。
中でもアズキはネットストーカー的な言動も多いし、私の家や個人情報を特定しようとしていたくらいだ。
今となっては家のことも私から教えてしまったのだから、隠しても仕方ないけれど。
それに姫草打鍵工房の本社は、家からも徒歩数分で私がよく手伝っている場所でもあったから、ほとんど家に招待するのと変わらない感覚がある。
お店は、駅から徒歩十分弱でちょっと奥まった路地にある。なんとも言えない立地だ。
私が店頭で働いているときも、あんまりお客さんは多くない。
一階が販売用の店舗で、二階には事務所、三階には製品用の倉庫という小さなビルが姫草打鍵工房本社である。
もちろん本社しかない。
工場も自前ではもっていないので、部品を各所から発注して最終的な仕上げの部分を一部だけ事務所などで手作業にて完成させていた。
まれに作業が追いつかなくて、親が家に持ち帰ったものを手伝うときもある。
既製品化している型番もあるが、最終的な仕上げなるべく手作業で行っているのが姫草打鍵工房の売り――とのことだった。
『サンプルを実際に触って、押し心地を確かめてからオーダーしたい』
「もしかしてアズキさん、けっこうキーボードこだわるほう?」
『今使っているのもかなり試して選んだ。でも自分でカスタマイズできるならもっと指馴染みを追求したい』
「うん、是非うちに来てよ!」
警戒心はあるけれど、お客さんは歓迎だ。
特に、キーボードに対して熱い愛を持っている人間であれば尚更。
「私が店手伝ってる日に来てくれたら、いろいろ紹介できるよ。おすすめとかあるし、店頭に並んでないサンプルとかも出せるから」
『ありがとう』
アズキの味気ないテキストメッセージ相手だって言うのに、私は嬉しさを隠せなくなっていた。
そのまま直ぐにアズキが店に来る日も決まる。
『いいなぁ、アタシも行きたい……でもしばらく仕事だし……』
「また今度ね」
ノノの次の休みは別の約束が既に入っていた。キスする約束の日だ。――いや、キスってする日付を決めて約束するものじゃない気がしてきたな。
『わたしも行きたいです。キーボード、ちょうど新しくしたかったので』
「え、ルルさんも? ……私としては、お客さんが多くてもかまわないけど」
『んあー、アタシを仲間はずれにしないでー』
「ノノさん、オーダーメイド・キーボードはパーツ次第だと完成まで時間がかかるから。これは延期とかできない約束なの。わかる?」
倉庫に在庫があるパーツの組合せなら、最短で数時間後にはお渡しとなるが、もし追加で工場発注ともなれば数ヶ月先にもなりかねない。
直ぐにでもアズキには、姫草打鍵工房の素晴らしいキーボードを体験してもらいたかった。
ノノの都合を優先して、アズキの来訪を延期することはできない。
こうしてノノと二人で会う約束の少し前に、アズキとルルとも会う約束が決まったのだ。
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