第6話 続々とおっさん以外がやって来ます。
自分が居る状況を理解できない。
私の名前は
何故かカラオケボックスで、とんでもない美少女と二人きりになっている。
「あの……改めましてですけど、ユズです」
「は、はい! ユズさん! わたしはルルです。よろしくお願いします」
「うん、よろしくね」
そう言ってどちらかともなく握手した。柔らかい。小さい手――ってなんで私がそんな、女の子の手に感動しているんだ!?
「とりあえず、座ろっか。あとの二人はまだみたいだし」
「はい!」
と元気に返事をくれるが、ルルは座る様子がない。私を待っているようだ。なにかすごく気を遣われていることに、落ち着かないけれど、私が腰を下ろすとそれに続いてルルも横に座った。
距離は、ほんの少し空いている。
ルルは私と自分の手元を交互に見ながら、顔を少し赤くしていた。
「……可愛いね」
「はひっ!? な、なんですユズさん? ユズさんが可愛いって話ですか?」
「いきなり自分が可愛い、って言い出したらおかしい子だよね。違うよ」
「す、すみません……」
と頭を下げて小さくなってしまう。
どうしよう。どう接していいかわからない。
おっさん相手のイメトレばかりしすぎてきた。護身用にと鞄の中にしまってきたヌンチャクも、美少女相手では使い道が見当たらない。
――待てよ? イメトレはしていないけれど、私は今まで散々おっさん達と話してきている。向こうからしたら私は美少女なわけだし? それを逆にやれば、美少女相手のふさわしい会話をできるのではないだろうか。
「可愛いのはルルちゃんのことだよ。すごい肌キレイだよね。唇も、リップなに使ってるの?」
「あの全然そういうのは……わたし……そのあんまりしたことなくて」
「え?
「は、はい。……あっ、そのすみません……ユズさんと初めて会うっていうのにわたし……もっとちゃんとしてくれば……」
ルル整った顔立ちを眺めて、美少女ってのは化粧なしで美少女なのだと平服したくなった。
私も、全然しない方なんだけど、正直並んで写真には写りたくない。
「ルルさん、モテるでしょ。彼氏とかいるの? イケメン? イケメンの彼氏とかいるんでしょ! モデルとか! もしかして芸能人!? アイドル!?」
「い、いないですっ! ……わたし、男の人苦手で……そういうの一度も……」
「嘘!? 一度も!? あっ、私もね、私も男の人苦手だからそういうのないんだけど、ほとんど」
「本当ですか!? よかった、ユズさんとわたし一緒ですね」
ニコニコと屈託ない笑顔を向けるルルに、私の中にある薄汚い部分が殺菌されていくようだ。
――うっ、おっさんみたいなこと言って、場を持たせようとしてすみませんでした。
育ちのいい美少女なのだろう。
なんでヴァヴァで私みたいなの相手に貢いでいたのかはわからないが、世間ずれしているところもあるのかもしれない。
不思議と同性であるが守ってあげたいという気持ちになる。
「ユズさん、どうしました? も、もしかして、わたしと一緒なんて言ったから……すみません、失礼でしたよねっ」
「えっ、そうじゃなくて! ううん、私、ルルさんと一緒なら嬉しいよ。ルルさんみたいな人が私のギルドに入ってくれたなんて――」
待て? 本当にこんな可愛い子が、普通にオンラインゲームで遊んでいて、しかも私のつくったギルドに入るなんてことあるのか? こういう子はもっとなんかこう――私がインドア派なので全く例は浮かばないけれど、陽キャ御用達みたいな趣味で遊ぶものじゃないのだろうか。
もしかして
いや、怖いお兄さんは来ないけれど、ギルドメンバーのおっさん達が来るんだった!!
一人はネットストーカー予備軍。
もう一人は課金アイテムを餌にして、女の子相手に平気でエッチな要求をしてくるストレートクズ。
ルルを二人に会わせていいのか?
「ルルさん。私、なにがあってもルルさんのこと守るから」
「守るっていったい……なんの話ですか?」
おっさん二人を相手に、か弱い女の私がルルを守り切れるだろうか。
こうなったら二人でもう店を出て後のことはすべて忘れた方が――いや、さすがにそれは人のモラルとしてマズい。
第一、あのおっさん二人が危険人物と決まったわけじゃ――いやいや、ルルと比べたら元々あの二人は危険人物だ。どうしよう。
私が結論を出せずにあたふたしていると、横でルルが心配そうにしていて、それはまた可愛かったのだが。そんなルルを見ていたら、結局逃げる前に部屋のドアが開いてしまった。
飲み物なんかはまだ頼んでいないから、店員ではない。
間違いなくアズキかノノのどちらか――。
「え、誰?」
入ってきたのは、スラリと背が高い女性だった。
髪型は黒のミディアムボブで、長め前髪が少し両目にかかっている。歳はそれほど上にも見えないが、大人っぽい雰囲気である。
前髪から見え隠れする切れ長な瞳を伏し目がちにしていて、いかにもクールで知的な印象を持つ。どことなく中性的で、いかにも仕事ができそうだった。
背も百七十くらいありそうだ。
それでいて、すごく細い。一瞬性別を迷いそうになる外見だったが、目元や腰つきを見ると女性なのは間違いないだろう。
――ようするにおっさんとほど遠い、美形のお姉さんだ。
「あのー部屋間違えてませんか? ここは……」
「
「えええぇ!? そ、そうですけど……あなたは……」
「僕は豆食べる
ハスキーがかった声で、背の高い美人が言う。
――豆食べる小豆ってアズキ? アズキってあのネットストーカー予備軍の!?
「う、嘘でしょ!? アズキさんが女の人で……しかもこんな……」
「君はユズか。この手、よく写真でみていたからわかる。その服もこの前の喫茶店に行ったとき着ていた服と同じ。ふふ、本物のユズ」
アズキは赤い唇をすっと歪ませて笑う。
――いやいやいや、怖い怖い!! おっさんじゃなかったけどネットストーカーではあるじゃん!!
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