第34話
「あ、赤になった!?」
「それで使える状態になった。ちなみにその魔石にストックされてる魔法は、それぞれの石によって違ってて、お前から見て右は火属性の《フレイムエッジ》で、簡単にいえば火の刃を生み出すことができる。それで真ん中は風属性の《ストームウォール》で、まあ周囲に竜巻状の壁を出して身を守ることができるし、傍にいた敵を吹き飛ばすことも可能だ。そして最後のは《グロウアップ》。これは一番使い勝手が良くて、身体能力を向上することもできるし、魔法そのものを強化することもできる。使う時は、リングに意識を集中させて呪文を唱えるだけでいい。まあ、こんなとこか」
いっぱい喋って喉が渇いたので、カップに入ったお茶で潤した。
「へぇ、ねえねえ、やってみていい?」
「別にいいが、《ストームウォール》は止めろよ。家が崩壊しかねないしな」
「そ、そんなに強力なの?」
「慣れてくれば、強弱もイメージ次第でつけられるようになるが、今のお前じゃ最大規模で発動してしまうからな。まあ、叔母さんがいいなら別にいいけど」
「いいわけないでしょうが! 鈴ちゃん、分かってるよね?」
「わ、分かってるって!」
鈴音は、椅子から立ち上がって、少し俺たちから距離を取って立つ。できるだけ周りに物がない場所にいる。
「…………《フレイムエッジ》!」
どこか緊張の面持ちで呪文を唱えると、鈴音が装備している《ストックリング》の真ん中の魔石が輝き、そこから炎が噴出し、瞬く間に形態を刃へと変えた。まるでそう、死神が持つ鎌のようだ。
……お?
「お、おおぉぉぉぉっ! これめっちゃかっこええやんっ!?」
どうやら気に入ってくれたようだ。まあ気持ちは分かる。何せ見た目は本当にカッコ良いし、自分がファンタジーな存在になったと興奮を覚えるだろう。
それよりも少し気になったことがあった。
本来魔法に慣れていないものが発動すれば、先ほど言ったように魔力をすべて消費してしまい最大規模になるのだが、鈴音が顕現させた刃は最大規模ではなく中位くらいの出力で安定もしている。
これは恐らく、彼女の資質が高いという証拠だ。それと同時にイメージ力も優れている。
驚いたな。これを一発でまともに発動させたのは、俺の知る限り賢者のあの子だけだったんだが……。
「ちょ、ちょっと鈴ちゃん、お願いだから振り回さないでね!」
叔母の懸念は理解できる。刃の形に留まっているが、なかなかの熱量が込められているのだ。それこそ触れただけで簡単に焼き切れるほどに。
「てやっ! とおっ! ほりゃっ!」
しかし残念なことにテンション爆上がり中の妹は、魔法に夢中のようで、叔母の言うことが耳に入らず、踊るようにして振り回している。
そして――ジュゥッ!
「キャーッ!? 壁がぁぁぁぁっ!?」
刃の切っ先が壁に刺さってしまい、僅かに切ると同時に焦げてしまった。
「あ…………えへへ、ごっめーん、キーちゃん」
「もう! 危ないから早くそれしまってぇ!」
涙目の叔母というのも新鮮だが、さすがにこれ以上は悪いと思ったのか、助けを求めるように鈴音が俺を見つめてくる。
「消すようにイメージすればいい」
俺の言いつけ通り鈴音が行い、スッと火の刃は消失した。
「あれ? まだ石は赤いよ?」
「魔力がまだ残ってる証拠だ。赤い間は何度も使うことができる」
最大規模で費やしていない証拠だった。
「なるほどぉ~………………ねえ、お兄ちゃぁん」
ギュッとリングを大事そうに抱えながら、物欲しそうな眼を向けてくる。
「はいはい。欲しいっていうんだろ。別にいいぞ」
「ホント!? やったーっ!」
「でも他の人がいる前で使うなよ? 分かってるとは思うけど」
「分かってるってばぁ~、えへへへへ」
本当に嬉しそうにクルクルその場で回っている。
「鈴ちゃん、本当にお願いだからさっきの火とか、竜巻とかは家の中で出すのは止めてよね」
「うんうん、分かってってばぁ」
「あぁ……本当にこの子は分かってるのかしら……すっごい不安」
確かに、気づけば火事になっているとか目も当てられないだろう。
「……あれ? でもお兄ちゃん」
「どうした?」
「コレを使ったらお兄ちゃんも魔法使えるんじゃないの?」
ああやっぱり、その疑問は持っちゃうかぁ。
「……はぁ。それがなぁ、俺には魔道具を使う素質もないんだよ」
魔力を込め、あとは呪文を唱えれば誰でも使用できるはずなのに、俺には魔道具を行使することができなかったのだ。
実際に幾つもの魔道具を試してみたが、発動しないか、発動しても暴走するかして、まともに使えなかった。
仲間だった賢者によれば、恐らく俺の魔力の資質に特異性があり、それが何らかの原因で魔道具と相性が悪いとのこと。
いまだにその特異性は判明できていないが、賢者は必ず解明してやると息巻いていたのを思い出す。結局俺がこっちへ戻るその時まで、解決法は見つからなかった。
もし解明できていたら、俺も魔道具を使えたかもしれない。そう考えると、もう少しだけ向こうに居ても良かったかもと思ってしまう。
「つまり、わたしはお兄ちゃんと違って、天才魔法使いってことだね!」
「わー、さすがは我が妹だなー。よっ、美少女魔道士すずね~」
明らかに棒読みなのだが、上機嫌な鈴音は「エッヘン!」と胸を張っている。
叔母も仕方ない子を見るような眼差しで拍手を送っていた。
そんな二人を見て、思わずクスッと笑う。
「およ? どうかした、お兄ちゃん?」
「え? ああいや……こんなことなら、もっと早く言っときゃ良かったなって思ってな」
「お兄ちゃん……」
「六ちゃん……」
「……本当は怖かったんだよ。こんな異常な力を持ってるって分かったら、怯えられるんじゃないかって……だから」
「バカッ! 怖がるわけないやん!」
「鈴音……!」
「たとえお兄ちゃんが魔法使いでも、勇者でも、ううん、どんな人でも、わたしのお兄ちゃんやもん! お兄ちゃんはお兄ちゃんなんやから、わたしがお兄ちゃんを拒絶なんか絶対せえへん! してやらんもんっ!」
「そうね、鈴ちゃんの言う通りよ」
「叔母さん……!」
「確かに驚きはしたけど、あなたが家族思いの良い子だって知ってるもの。だからもう一人で背負い込むことはないんだからね」
二人の言葉が胸の奥に染み渡り温かくなる。
…………俺は幸せ者だな。本当に……戻ってきて良かった。
「ありがと……二人とも」
俺の心からの感謝に、二人も満面の笑顔で答えてくれた。
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