第33話
「地味で悪かったな。これでも実体化させられるのは珍しいことなんだぞ」
「へぇ、そうなんだ」
実際、魔力というものに実体はなく、それこそ見えない煙のようなものである。また魔力を操れる者にしか魔力を目で捉えることもできないし、こうして一般人にも可視化するのは、非常に高等技術であり、膨大な量を宿す証でもあるのだ。
元々豊富な魔力量を持つ俺は、その魔力を圧縮させて実体化させている。言い換えれば、相応の量が無いと実体化させられないのだ。それに形態を変化させることも技術が必要で、普通はせいぜいが自分の身体に纏わせたり、手に持っているものを覆うだけ。
俺みたいに、自在に形態変化させたり、硬度などの質まで変えたりすることはできない。できるとしても才能と長い長い鍛錬が必要になるらしい。
俺は元々魔力操作の才能だけはあったようで、それが加護により開花し、結果的に魔法を補うほどの汎用性を得ることができたというわけだ。
「だからその気になれば、この魔力だけで岩だって砕けるし、刃物代わりにだってできる。それに実際にこの力でモンスターだを倒してきたしな」
魔力の硬度を上げて岩を殴れば簡単に破壊できるし、鋭くさせれば切断だって可能。しかも魔力を広域に展開させれば、遠距離攻撃だってお手の物だ。
事実、少し前にバイクに乗った窃盗犯を退治した時も、この力で対処した一例である。
俺はその場から動かずとも、敵を単体だろうが複数だろうが相手にできるし、一瞬でその首を魔力刃で掻っ切ることだって可能。
またその気になれば、大量の魔力で作った塊を、空から隕石のごとく落下させて、村でも街でも、それこそ国でも壊滅させられる。
だからか、敵側には畏怖を込めて『
それからはさらに興味が湧いたのか、異世界でどんな生活をし、旅をしてきたのか、矢継ぎ早に質問攻めにあった。
気づけばすでに外は真っ暗になっていて、一旦中断し夕食を食べることになったのである。時間も時間だし、サクッとできる鍋で腹を満たすことになった。
「でもお兄ちゃん、やっぱり魔法を使ってみたいって思ったことはなかったの?」
鍋に入った豆腐を掬いながら鈴音が尋ねてきた。
「そりゃあな、せっかくのファンタジー世界だし、魔法への憧れはあったぞ」
だってやっぱり火とか雷とか、呪文を唱えて放つのはカッコ良いしな。
「だよねー。ああでも、わたしも一緒に行ければ良かったのになぁ。魔法だって使えたかもしれないし」
「……別に使おうと思ったらできなくはないぞ」
「ふぅん、そうなんだ…………って、おおおおお兄ちゃん、今何て言ったんっ!? え、マジで!? ウチも魔法使えるんっ!?」
当然とばかりに目を丸くする鈴音だが、その隣にいる叔母もまたジッと耳を傾けている。
「まあ……魔道具を使えば、それらしいことはできるし」
「お、おお! 何だかファンタジーっぽい名前が出た! その魔道具ってどんな!?」
「テンション高いな。例えば……」
俺は『次界の瞳』から、あるモノを取り出した。
それは細いブレスレットで、銀を基調としていて中央に灰色の石が三つ嵌め込まれている。
「コイツは――『ストックリング』って言ってな、魔法の術式を刻み込める魔石が嵌め込まれていて、複数の魔法をストックしておくことができる代物なんだ」
「うんうん、それでそれで!」
まるで新しい玩具でも見るような輝き溢れた目で鈴音が見てくる。
「あーつまりここに魔力を込めれば、ストックされた魔法を発動できる」
「じゃあそれを使えば、わたしにも魔法が使えるんだね! ……あれ? でもわたしに魔力ってあるの?」
当然の疑問だろう。少し不安気なのは、魔力が無かったらせっかくの機会を失うからだろう。
「安心しろ。魔力ってのは基本的に誰にでもある。もちろん少ないか多いかは個人によって異なるけどな」
「じゃ、じゃあわたしは? それを使えるくらいの量はあるの?」
「問題ないと思うぞ。これは魔力が少ない者でも魔法を扱うために作られた魔道具だからな」
「やった! ねえねえ、どうやったら使える?」
「ほれ、まずは腕に嵌めてみろ」
そう言って手渡すと、鈴音はすぐに右腕に装備した。
「それでこれでどうするの?」
「リングに嵌められた三つの石。今は灰色だろ?」
「う、うん」
「その石は魔石って言って、装備者の魔力を自動で吸収するもので、満タンになったら赤色に変わる。その状態になれば、いつでも魔法が発動できるんだ」
「…………変わらないよ?」
「まあ今は空っけつだし、溜まるまではそこそこ時間はかかる。魔力操作できない鈴音じゃ、自然に溜まるまで待つ必要があるが、今は俺が魔力を注いでやるよ」
リングに触れて魔力を放出すると、あっという間に三つの石の色が変わった。
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