第14話

「歓迎会? アンタね、いきなり何言ってんのよ?」

「だってだってぇ! 新しいメンバーさんだよ!」

「メンバーって……六道はアイドルを目指してるわけじゃないわよ。それともアイツにヒラヒラのスカートを履かせて躍らせるつもり?」


 それは断固として止めてほしい。黒歴史どころじゃなくなる。そんなことになれば、家に引きこもりニートまっしぐらになりそうだし。


「お兄さんにスカート……もしかして似合うかも」


 ちょいちょい、不穏なことを言わんでくれ小稲よ。


「似合うわけないでしょ、小稲! そんなのキモイ! ただキモイだけよ! ああ、想像したら寒気してきた」


 それはそれで結構酷いな。いや、気持ちは分かるが、本人がいる前で言わないでくれ。

 横森さんに助けを求めようとするが、彼女はツボにはまったのか笑いを殺すような感じで震えている。どこがそんなに面白いの?


「ドライバーさん! 歓迎会してほしいですよね!」


 おっと、今度はこっちに直接振ってきた。


「あー俺は別にどっちでもいいよ」


 正直女だらけの会で、俺一人というのは気まずい。できればスルーの方向へお願いしたいが。


「えーそれ寂しいじゃないですか! やりましょうよ歓迎会! 私、セッティングしますから! もちろん社長たちも一緒で! ね、いいですよね、香苗さん!」

「ぷっ……ふふ……え? えっと、歓迎会ですか? あ、はい。いいと思いますよ」


 あーあ、賛同しちゃったよ。


「よーし、じゃあ今から事務所に行って歓迎会の準備を――」

「このおバカ! これから帰宅しようとしてるんでしょうが! やるならまた今度にしなさい!」

「えぇ、盛り上がってきたのにぃ」


 いえいえ、決して盛り上がってません。むしろ俺の心は冷え切ったままですが?


 それにしても、突拍子もないことを言ってくれる。どうやら月丘は、思ったことをそのまま口にし、行動力もずば抜けた少女のようだ。


 まあ、裏表が無さそうな子だから好感は持てるけども……。


「そうですね。歓迎会については、私が事務所に戻ったら社長に通達しておきますよ。多分OKが出ると思いますから、それで今日は我慢してくださいね、姫香ちゃん」

「むぅ……でも香苗さんがそう言うならしょうがないですね! 分かりましたぁ!」


 あはは、どうやら歓迎会は確定のようだ。その日、都合よく腹を壊したりしないだろうか。


「あ、じゃあ夕羽ゆわちゃんにも伝えておこーっと!」


 ……誰だ?


 俺は、スマホを操作し始めた月丘から、意識を横森さんへと向ける。


「横森さん、ユワちゃん? ってのは誰でしょうか?」


 随分変わった名前だが。もしかして外国人?


「夕羽ちゃんは、まだ紹介できていない最後の子ですよ」


 ああ、そういえばあと一人アイドルの卵がいると聞いている。


「どんな子なんです?」

「姫香ちゃんと同じ高校一年生で、とても大人びた綺麗な女の子ですよ」

「綺麗系ですか。そういえば雑誌取材とか言ってましたっけ?」

「はい。本当に綺麗な子で、モデル雑誌とかの仕事が結構舞い込んでくるんです」

「なるほど。じゃあ五人の中で一番仕事があるんですか?」


 社長からは、まだそれほど彼女たちは仕事をしていないと聞いている。ライブもしたことないし、たまに入る営業ばかり。今はレッスンで己を磨く時期だと、皆も頑張っているらしい。


「そうですねぇ。確かに一番出払うことが多いのは夕羽ちゃんです」

「でも空宮は人気子役だったんですし、それなりに露出は多いと思ったんですけど」

「あータマモちゃんに来ていたオファーもあったんですけど、そのほとんどがドラマ関係でして」


 だが、本人はドラマよりもアイドルの仕事をこなしたいと断っているそうだ。歌って踊るのがアイドル。だから今はライブに出ることが目的らしい。


 ドラマや映画、さらには舞台に出ると、レッスンの時間が大幅に削られてしまう。ただでさえアイドルとしての経験値が足りないのに、そこを疎かにして演技に気を入れたくないという。


「タマモちゃんってば、プライドが高くて。アイドルとして、まだ名も売れていないのに演技に重点を置くと、アイドル業が中途半端になってしまう。そんなのは絶対に嫌って言ってるんです」


 空宮には空宮だけの信念があるのだろう。そこを譲ってしまえば、自分が自分でなくなってしまう。

 何故そこまでアイドルに執着するのか分からないが、俺としては信念を持っているならば応援してやりたいと思った。


「あと、ですね……」

「はい?」


 何だか言い難そうな表情を浮かべる横森さん。


「夕羽ちゃんのことなんですが、ちょっと取っつきにくい子かもしれませんが、決して悪い子ではありませんから。それを覚えておいてあげてください」

「は、はあ……」


 何だか不安になりそうなことを言ってきた。そう言うということは、少なくとも空宮のような我の強い子なのだろうか。それともしるしのような、どこか接し方が難しそうな無口系不思議ちゃんなのだろうか。


「で、でもあのタマモちゃんが認めた人ですから! 大枝さんなら大丈夫ですよね!」

「ま、まあ善処します」


 俺としても平和的に仕事できる方が良いし、仲良くできるならそれが一番いいだろう。ただ、どうしてもダメな場合は、その時に判断すればいい。最悪辞めることになったとしても、後悔だけはしない選択をしなければ。


 そうして、新たに仕事とアイドルへの接し方の決意を秘め、俺はアイドルたちを自宅へと送っていったのであった。




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