10月10日④

気持ちのいい秋晴れの中、私は必死に走っていた。


「間に合ってくれ…」


連絡のあった病院へ着くと、受付で妻の名を伝える。

案内された部屋から、タイミングよく白衣を纏った女性が出てきた。


「先生、妻は…」


女性はニコっと笑った後、部屋へどうぞと促す。

勢いよく開けた扉の向こうには、膨れた妻の姿があった。


「静かにしてよ、泣いちゃうでしょ」


妻の腕に抱かれた小さな命は、時折手足をピクリと動かしながら、スヤスヤと寝息を立てている。

手を入念に洗い、その小さな命を抱き上げる。

抱かれ心地が悪いのか、険しい表情でうっすらと目を開けたその子に、震える声で話しかけた。


「ありがとう、よく来てくれたね」


頬を伝う涙が小さな手に落ちる。ピクリと跳ねた後、我が子は少し微笑んだように見えた。



あの日、妻は生きていてくれた。

何も言わずに手を繋ぎ、家まで歩いてくれた。

涙の理由や奇行の訳も聞かず、寄り添ってくれた。

そして今日、表現できないほどの感動をくれた。


あれから、不妊治療を再開した私たちは、幸運にも命を授かることができた。

そして丁度一年後の今日、10月10日にこの子が生まれた。


「立ち会えなかったね、すぐ生まれちゃったから」


そう笑う妻の笑顔も、この腕に眠る小さな命も、もう絶対に離さない。


「今日って、第二の子供の日なんだって」


妻が言うには、5月5日の丁度2倍であり、妊娠期間のトツキトウカにちなんで、そう呼ばれているらしい。

ほんとかどうか分からないが、何だか縁を感じた。


あの日の出来事は今も謎のままだ。

何が理由だったのか、何が正解だったのか。

神様の気まぐれか、この子が仕組んだことなのか。

いや、正解なんてないのかもしれない。

だったら、これからを正解にしていこう。

指を握る小さな手に、私はそう誓った。

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正解探し ごま太郎 @gomatrou

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