10月7日②
リリリン、リリリン、リリリン…
目覚ましを止め、ゆっくりと起き上がる。
いるはずのない自分の部屋で、着替えた覚えのない自分のパジャマを着て。
昨日はそのまま寝てしまったと思ったが、きちんと目覚ましまで合わせて、偉いじゃないか。
これも神様がくれたチャンスのおかげか?
清々しい気分でリビングへと向かう。
「おはよう」
どこからか聞こえてくる返事を聞きながら、テーブルに着く。いつものように届けられたコーヒーに口をつけながら、新聞を手にする。
「昨日はよく眠れた?」
そう問いかける私に、妻は不思議そうな顔でうん、とだけ答える。
「うっかりソファで寝ちゃって、でも起きたら…」
ここまで話したところで、妻の違和感に気付く。怪訝な表情もそうだが、昨日の朝来ていた服と同じだからだ。
妻は起きたらすぐに着替える性分で、同じ服を続けて着ることはほとんどない、はずである。
嫌な予感を見ないように、私は恐る恐る妻に尋ねる。
「昨日もその服着てなかった?」
困惑した表情の妻と、見て見ぬ振りができなくなった予感がこちらを見ている。
私は慌てて新聞に目をやる。
『10月7日 木曜日』
頭が真っ白になった。昨日の7日はなかったことになっている?確かにお酒も残っていない。朝の自分も、妻の様子も全て辻褄が合う。
「大丈夫?なんだか変よ?」
妻の言葉に、大丈夫、とだけ答えて部屋に戻る。
答えになっていないのは分かっている。それでも、それしか答えられなかった。
部屋に戻り、急いでスマホを確認する。
もちろん、そこにあの絵文字は見つからなかった。
軽いめまいを覚えながらも、スーツに着替え家を出る。
行ってきますと言っただろうか。
それも分からないほどに、私の心はこの状況に悪酔いしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます