10月7日
翌日は、いつも以上に周りに目を向けた。
行き交う人、流れるニュース、妻の行動。
そのどれもが見覚えがあり、それでいて目新しい。
偶然なのか、そんなはずはない、
そんな自問自答をしているうちに、あっという間に時間は過ぎていった。
10月7日
この日、私は一つの行動を起こした。
会社の昼休み、妻に夕飯を食べに行こうとメールを送る。
恐る恐る返信を確認すると、いいよ、の簡素な文字に、見覚えのある絵文字が添えられていた。昔、まだ2人が2人であった頃によく見た絵文字だった。
仕事を終え、待ち合わせの店へと足早に向かう。
なんとか5分前に着いた私を、妻は手を挙げて呼び入れる。
ここは当時、よく飲みにきていた居酒屋だ。
高級レストランなども考えたが、久々の2人での外食はここがいいと思った。
店員の顔ぶれはすっかり変わってしまったが、店の雰囲気やメニューは変わらず、当時のままだった。
乾杯を済ませ、料理を口に運ぶ。
「何かあったの?」
私は首を横に振り、たまにはね、とだけ返す。
「最近はどう?」
「特別なにも」
「あのドラマ続編始まったね」
「録画してあるよ」
シンプルなやり取りだが、お酒の助けもあってか、いつぶりかのキャッチボールが続く。
「でさ、名前がトウゴウ君、笑えないよ」
「可愛いじゃない、あたしはいいと思うな」
少しずつ、あの頃の感覚が蘇ってくる。
あっという間にラストオーダーの時間になった。
会計を済ませ、店を後にする。
タクシーに乗り込み、家に向かう最中、私は妻の手を握った。嫌がるそぶりもない妻の手はとても細く、か弱く、しかし温かかった。
久々のお酒もあって、帰るなり私はソファに転がり込む。ほんのり甘い、あの香りだ。
妻は手際良くアクセサリーを外し、シャワーへと向かう。
きっと神様がくれた、2人をやり直すチャンスなんだ。
酔った頭で都合のいい妄想を抱きながら、私はそのまま眠りについたのだった。
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