血には血を
じめじめしていて薄暗い部屋は発光石を光源としていた。
「────いやいや、ここまでするか?」と俺は独りごちる。
ここは陽光が差し込まぬ場所。ただしアイラの村で見せてもらった冷暗所とはまた
「おい、新入り」隣の
ここには冷えた麦酒もなければ、外へ這い出でるための梯子もない。
この時の俺は、鉄格子の向こう側に見える翡翠色の光をぼんやりと眺めて、発光石にもカラーバリエーションがあるんだな、などと考えていた。
「───おいてめぇ!!無視すんじゃねえ!!」怒鳴り声だ。
「やかましいなあ」
「へへへっ、喋れるんじゃねえか。看守が話してたぜ、麦酒をただ飲みしたってなァ。あんたも馬鹿なことをしたよ。ま、同じ地獄までの道行だ、仲良くしようや」
「地獄?そんなものに付き合うわけないだろう。無銭飲食の罪なんてたかが知れてる。せいぜい一週間もここで反省すれば自由の身だろう」
「は……?てめぇまさか知らねえのか?」
「何をだよ」
「へははははっ!!こいつはケッサクな野郎だ。飲み逃げの罪は"死刑"なんだよ!」
「は?」
「ぷくくく……その反応!あー腹が痛え!この国は州によって法律が違うんだよ。この州じゃ麦酒を飲んで金を払わねえやつは問答無用で死刑が課せられる。"血には血を"だ」
「血には……ってまさかペルズブラッドのことを言ってるんじゃないだろうな?」
「なんだそれは知ってやがったのか。まあ本当は問答無用で串刺しの刑なんだが、あんたツイてるぜ」
無銭飲食しただけで死刑というのも理解し難いが、執行方法があまりにも残酷すぎる。どうせ流血を伴う刑に処すのが相応しいとかそんなくだらない理由に違いない。
「この状態のどこがツイてるんだ」
「ついこの間、処刑方法が変更になってな。必ず死ぬってわけじゃなくなったんだよ」
「それじゃあ処刑にならないだろ……どうやって」
「決闘だよ」
「決闘って、死刑囚同士を闘わせるっていうのか?」
「馬鹿、それだと二人に一人は生き残っちまうだろ。だからもっとやべぇもんと闘わせるんだよ。この街の地下に国営の決闘場があるのは知ってるな?」
「知るわけないだろ!」
「結構有名なんだけどな……とにかくそこで飼い慣らしてるシーズと闘って勝てば無罪放免ってわけだ」
「シーズだって!?あんな化け物と……」
それよりもアレを捕獲して飼い慣らすことが出来ることに驚きだ。
「死刑囚が登用されるようになってまだ日も浅いんだが、未だに生きて開放された奴は一人もいねぇよ」
「だろうな……死刑囚が使われる前はどんな人間が闘っていたんだ?」
「そりゃおめえ、奴隷だよ。数年前に奴隷制度が撤廃されてよォ、死刑囚が闘うようになったのはそれ以来だ。なんでそんなことも知らねえ?おめえ他所の国のもんかァ?」
「あ、ああ、そんなところだ。それよりも───」
奴隷制度と娯楽としての決闘場、ローマのコロッセオそのまんまじゃないか。
「シーズってのは一体何者なんだ?」
「どうも本当に他所モンみてえだな……この大陸で育ってシーズの恐ろしさを知らねえやつなんぞいねえからな。何十年か前に突然現れて、そこらじゅうで人間を殺し始めた化け物さ」
「そいつの恐ろしさは体験したからわかる。だが何故人を襲う?」
「ほう、シーズに襲われて生き残ったか。ツイてんだかツイてねえんだかわからねえヤツだな。あいつらァ、魔法力を持った人間を狙ってやってくる」
「ひとつ聞いていいか?」
「おう、なんだい」
「魔法力を持った人間っていうのは、この国にどれくらいいる?」
「あー……はっきりとした数はわからねえが、そこいらじゅうにいるぞ。俺の体感だと人口に対して二、三割ってとこじゃねえか」
「なるほど…」
するとあの村にもローゼさんの他に魔法を使える者が居たに違いない。
「シーズに襲われた時は魔法力で撃退するのか?」
「ン…まあそうだな。だけど俺ら一般人の魔法なんて戦闘向きじゃないことがほとんどでなァ。だから大体こういう街には自警団がついてるよ」
「街をシーズから護る役割の集団か……」
「けどもちいせえ村なんかは自警団がいねえから、奴らに襲われたらひとたまりもねえだろうな」
その時、房の外から石の階段をカツカツと誰かが降りてくる音が聞こえてきた。ほどなくして金属製の扉が解錠される音と共に数人が房の方へ向かってくるのがわかった。
「────13番、14番、出ろ。房を移す」鉄格子の向こうには四人の男が立っていて、そのうちの一人が告げた。
自分と隣の男の房の鍵を開けると、すぐに手錠を掛けられ、物でも扱うみたいに二人がかりで乱暴に俺たちを独房から引き摺り出し、視界を遮るための拘束具を被らされた。
「これから
よく見ると、その男だけ帽子の装飾が他の三人と違い、細長く伸ばした金属と思われる二本の装飾が鉢周りを囲っていた。
「───返事をしろォォ!!」
「「はいッ!!!」」突然の激昂に驚き、俺と隣の房の男は反射的に声を発した。
前後に看守を付けられた状態で階段を下り、ひとつ下の階へ下ろされ、連絡通路と思われる長い廊下を護送される。視界が足元しかないため、看守が引く鎖だけが頼りだった。
時間にして十分は歩いただろうか。よくもこのような長い地下通路を作ったものだと感心する。長い階段を登りきり、頭の拘束具を外されると、そこには四つの
「───入れ」
二人が看守が開けた扉の中へ強引に押し込まれると、すぐさま錠前は締められた。
「悪いが手錠は外せん。自殺されると掃除するのが面倒なのでな。試合は明日の正午だ」リーダーらしい看守はそう言うと残りの三人を引き連れ
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