降臨
アリスが転移を完了するとそこは儀式場だった。十皇は【侵蝕皇】以外が揃っていた。
儀式場は円形の広場のような場所で中央には祭壇がある。光源は祭壇に置かれた蝋燭のみでとても薄暗い。
その中央には死の気配を撒き散らしながら終域を吸収している男がいた。しかしその男は地面に膝をつき、苦しそうに呻いている。
気配はどんどんと大きくなっていくが、比例して男の苦しみようも酷くなっていく。
言ってしまえばチグハグだった。
「どうなっている?」
アリスが訝しみ呟いた。その言葉に反応してか男が絶叫しながら喚き散らす。
「残念だったなぁ!!! もう手遅れだぁ! 神が! 神が降臨なされる! お前らはしぬんだよぉおおおおお!!!」
その顔には笑顔が浮かんでいた。苦しみながらもそれが心底嬉しいとばかりに。
……狂っている。
アリスは率直にそんな感情を抱いた。
次第に大きくなる気配に、このままにしたらまずいとアリスは感じ、
しかし横からクロノスが止めた。
「……だめ。シュバルツがあそこにいる。それに消滅させた所で止まらない」
男を見ると体の表面に黒い線が幾重も走っている。これは【侵蝕皇】であるシュバルツの能力だ。おそらくあの男の内部で押さえ込もうとしているに違いない。
「なにがあった?」
「……シュバルツがあの王と戦っていた。それで倒す寸前にあいつが禁術に手を出した。シュバルツは咄嗟に
禁術というものは命を対価として発動する魔術全般を指してそう呼ぶ。
元来、魔力とは身体に宿るものだが禁術では人一人の魔力では足らない魔術を行使する際に魂そのものを魔力に変換するのだ。
「その禁術が神の降臨だと? 魔力は足りるのか?」
男は神の降臨と言った。そんな埒外の存在を降臨させるにはたとえ魂を使おうとも足りるはずがない
クロノスは首を横に振った。
「……普通なら足りない。けど魔力を生み出せる王がいた」
「まさか【暴食王】か?」
魔力は身体に宿る。あの【暴食王】ならば肉体を引きちぎっても細身になるだけで生きていた。ならば無限の魔力保管庫になりうる。
アリスの予想は正しかったようでクロノスが頷いた。
「……そう。アリスが倒したの?」
「ああ。私が殺した」
「……この大陸の王は神の眷属に唆されていた。守るべき大陸を守らずに眷属の口車に乗って神を復活させようとしている」
なぜクロノスがそこまで知っているのかはわからないが今話すしている時間はなさそうだ。
男にヒビが入った。体内からシュバルツが顔を出す。
「ダメだ! 抑えきれない! アリス! 僕ごと消滅させてくれ! 力の大半を持っていってみせる!」
アリスは一瞬だけ逡巡した。
迷わずというわけにはいかない。今まで旅をし共に戦ってきた仲だ。「はい。わかりました」とはならない。
それが致命的だった。
男が甲高く不気味な笑い声を上げた。
「神よ! 我らに救いをぉおおおおおお!!!」
気配が膨張し炸裂する。それは破壊を撒き散らし、祭壇を吹き飛ばした。
土煙が晴れたあとそこにいたのは浅黒い肌を持つ偉丈夫だった。灰色の髪を持ち、瞳は黒く染まっている。
そして顔には見覚えがあった。
「……シュバルツ?」
僅かだが【侵蝕皇】シュバルツの面影がある。しかし身に纏うのは魔力は邪悪そのもの。顔に張り付く笑みもシュバルツとは似ても似つかない。
身体を乗っ取られた。そう考えるのが自然だ。
「……よりにもよってお前か。アルカナ」
クロノスが冷ややかな声音で言う。
「……クロノスか。久しいな。何千年ぶりだ? 時を司る貴様には関係ないか」
「……今日はずいぶん口数が多い」
「それはそうだろう。ようやく降臨できたのだ……」
アルカナは天に向かって腕を広げる。
「テメェはなんだ!」
ラグナが叫ぶ。しかしアルカナはそちらを見もせずに苛立ちの声を上げた。
「神の会話に口を挟むな人間」
一瞬でラグナの首が飛ぶ。
しかしラグナが居た場所に時計盤が出現するとその空間の時間を巻き戻す。
宙を舞っていた首が逆再生のように元に戻る。
「かはっ! ……何が……起きた!?」
首がつながったラグナは脂汗を流し動揺していた。何をされたのかすらわかっていない。
アリスには見えていた。アルカナの魔力が剣の形状になりラグナの首を斬り落とした。
「……今の見えなかった人は下がってサポート。セラ。致命傷は任せて。それ以外はお願い」
クロノスが前に出る。同じようにアリスも前に出た。
他の十皇がクロノスの言葉に従い後ろに下がる。
「面白い。我を……破壊神アルカナ=ライリスを滅ぼす気か?」
「……お前は存在してはならない。……アリス。ごめん」
クロノスがアルカナを見据えたまま頭を下げた。
「終わったら説明してもらうぞ!」
「……うん」
そうして十皇と破壊神との戦いが始まった。
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