混沌皇
目の前にあったのは間違いなく終域だ。しかし巨大すぎてる。黒い境界線がまるで壁の様に感じる。
見上げれば雲の上まで黒が覆っていた。
終域は規模が大きくなるほど中のバケモノが強くなる性質を持つ。
よってこの中にはどれほど強大なバケモノがいるのか想像すらつかない。
「アリス。どうするよ」
冷や汗を流しながらラグナが言う。つまり、各個撃破か分散か。
各個撃破にすれば安全性が跳ね上がる。しかしこれだけ巨大な終域を滅ぼすためには何ヶ月、いや何年かかるか。
分散すれば危険が伴う。しかし終域を滅ぼす速度は格段に上がる。
「……クロノス。どう思う?」
「おいおいアリス! 弱気なってんじゃねぇよ! オレたちを舐めてんのか!? 皇だぞ! 分散して蹂躙だ! 決まってんだろうが!」
ジンが吼えた。その激情を表すように身体からは劫火が漏れ出ている。
「癪だけど僕もジンに賛成だね。アリス。僕たちはあの時よりもさらに強くなっている。分散しても問題ないよ。みんなもそうだよね?」
十皇全員が口々に決意を露わにする。
「……アリス。行ける」
最後にクロノスがいつも通り、抑揚のない声でつぶやいた。
「…………わかった。すまない。クロノス、内部への転移は可能か?」
「……ん。それも含めて
クロノスが小さく頷く。
「では各地への転移を頼む。みんな死ぬなよ」
「誰に言ってんだよリーダー! 任せな!」
「……行くよ。空間転移」
そうして十皇は各地へと転移した。
アリスが転移したのは暗い森の中だった。
今まで滅ぼしてきた終域よりも空気が重く、澱んでいる。
「……初っ端からか」
アリスがめんどくさそうに呟く。
上空に巨大な魔力反応があり、アリス目掛けて降下してきていた。
目を凝らすとそこにはドラゴンがいた。そのドラゴンは漆黒で、かなり距離があるのにも関わらずかなりの大きさがある。
ドラゴンの口に黒い焔がちらつく。
これはドラゴンが
放たれればここら一体が吹き飛ぶだろう。
「人の気配はなし。なら――」
頭上に手を掲げ、アリスは呟く。どうせ吹き飛ばされるのなら先に纏めて吹き飛ばす。
「――終極」
アリスが小さく呟いた。
掲げた手のひらに光と闇の球体が現れる。それは螺旋を描き空へと舞い上がる。
今まさに
ドラゴンから血液が噴出するが、それも纏めて吸い込み、押し潰す。
そして遥か上空で光と闇が衝突し、混沌が顕現した。
混沌とはこの世界に存在する属性、地水火風光闇無のいずれでもない属性。
光と闇の魔力属性を持つアリスだけに許された特異属性。
天恵【混沌皇】がなければ制御すらできない危険な代物だ。
輝く闇とでも形容できる混沌は全てを飲み込み消滅させる。
終極は相反しながらも併存する光と闇の魔力を衝突させる事により、爆発的なエネルギーを生み出し周囲を呑み込む技だ。
よってアリスの立つ場所から半径十キロにわたる範囲が木や地面ごと消滅した。
「やはり生き残りがいるか」
アリスは振り返り、敵を見据える。アリスの立つ地点から約八キロの地点にソイツはいた。アリスからみたら豆粒の様にしか映らないが、先程のドラゴンとは比べ物にならない魔力を放っている。
終極を受ければ強力なバケモノであろうとなく消滅する。
しかし強力という言葉では生ぬるいほどの、正真正銘の
……やはりこれだけの規模の終域となると生き残るのもいるか。
そう思った瞬間、バケモノの魔力が揺らいだ。アリスは反射的に半歩後ろへと下がる。
刹那、バケモノが眼前に出現した。
そのバケモノは黒い影の様な見た目で非常にのっぺりとしていた。しかし腕が振られる寸前に剣の形に変化した。アリスの眼前を剣腕が通過する。
……速い!
「開闢終焉の剣!」
声に応じ、手に剣が握られる。それは漆黒に輝く剣だった。無駄な装飾は一切ついておらず、シンプルで無骨な剣。とても皇帝が持つ様な剣ではない。しかし皇には相応しい。内包する魔力がこれを示している。
それをアリスは無造作に振るった。
刀身から混沌が放たれる。
バケモノが跳躍して躱そうとするが避けきれずに剣腕を文字通り吹き飛ばした。
しかし、それで終わりではない。
「闇よ」
アリスの影が、深淵の様に昏く染まる。それが一瞬で全方位、周囲一帯の地面を飲み込んだ。
「影剣乱舞」
アリスな剣の持っていない左腕を天高く掲げる。
すると深淵から無数の剣が迫り出し空中にいるバケモノに突き刺さる。
だが、依然としてバケモノは生きていた。
……畳み掛ける!
「光よ!」
アリスが掲げた左腕を今度は振り下ろす。
「天槍驟雨」
それは急に降り出す夕立のように。
天から光の槍が降り注いだ。
バケモノが体全体を貫かれて地面に落ちる。当然地面には影槍がまだ残っている。
そうしてようやくバケモノは消滅した。
これが【混沌皇】アリス=ゼロエス。
その圧倒的な強さ、カリスマで十皇を束ね、導く皇。
「……いくか」
そうしてアリスは歩きだす。より強く邪悪な魔力反応へと向けて。
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