私絶対ダシにされてる

 小学生六年生の初夏に差し掛かる頃、私は筆箱を取られていた。


「筆いれ返して!!!」

と必死に佳穂と光希のコンビに言うが、

「なんであんたなんかの頼み聞かなきゃいけないの?」

「バーカ!」


 私が自分の手に戻そうと必死に、筆箱を追いかけるが、果穂と光希は連携プレーを取る。

「もうすぐ委員会に行かないといけないし、返してよ!」

必死になっていっている私を笑いながら、担任の林先生は言う。

「猪田先生に怒られれば良いでしょ?」


「ダメだ、なんかこの人たち、すっごくダメだ!」

猪田先生はただでさえ、贔屓と差別が酷い先生で、私は差別されていて、これみよがしに嫌なこと言ってくるに決まってる。

それも含めて、この人たちダメだ、だ。


「じゃあ、筆入れあげるから、もう良い!」

と投げやりに行って、委員会に行こうとすると、

「こんな汚いのいらないよ」

光希は筆箱を、こちらに放り投げた。その拍子で中身がバラバラと散乱した。


 それを拾って、委員会に行こうとすると、林先生が一言残して立ち去った。

「あんた、佳穂さんと光希さんに嫌な思いさせて、でも筆箱返してもらったんだから、お礼を言いなさい」

「は?」

私がきょとんとしながら、筆箱を拾おうと、する。




 そのくらいのタイミングで、光希が黄色い声で言う。

「良君!!!」

光希は佳穂を連れて、良の方へ駆け寄ったが、良は二人を素通りして、筆箱の中身を拾うのを手伝ってくれた。

「あ、ありがと」

「良いよこれくらい」


 光希は良に

「私も拾うよー!」

と言ってこちらに駆け寄る。すると良は、

「糸石のもの、汚いと思うんだろ、お前は」

と言いながら、拾った鉛筆やらを手渡してくれた。


「汚いついでに」

と良がいうと、前方で屈んでいた私の肩を触った。

「ほら、俺はもう、お前らにとって汚い存在になったはずだ」

と、肩を触った方の手をひらひらしてみせた。




「糸石、遅かったね」

猪田先生が言う。

「罰として、あんたには仕事を与えない」

とか言い出す。


「林先生には、サボっていると申告してやるから」

とか話を続けるが、

「糸石は悪くないです。悪いのは小宮山と広瀬です」

と良は委員会室に入って行った。


「あ、あらそう、誤解したのね、私。じゃあ、これ、やって頂戴、糸石」

良が学業優秀なタイプの生徒だからか、態度が急変した。

良がそれだけを言って、委員会室を後にし、少し経ったタイミングで。

「あんた、悪運強いね、憎たらしい」

と、猪田先生は苦々しく言った。


 それらを踏まえて思ったことはこうだった。

「青井良は光希さんのこと、嫌いなんだ」

で、更にこう付け加える。

「で、私をまんまとダシにして、自分から光希さんを遠ざけようとしたと……」


と思いながらも、呆然とした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る