恋が盲目すぎて怖い。

 中学一年生の時の4月、部活の休憩時間に、私、美代子、理絵(りえ)、薫(かおる)先輩でちょっと話していた。


 四人は同じ部活である吹奏楽部の、同じ打楽器パートを担当していた。理絵は同じ小学校出身の同級生で、薫先輩は一つ学年が上の男子の先輩。


 薫先輩は私、美代子、理恵に話題を振る。


「お前らって、誕生日いつ?」

と薫先輩が問うので、三人とも次々と答えていった。そして、最後に、

「俺、糸石と同じ誕生日な」

と薫先輩はすごいと言わんばかりに言った。


「そう言えば、それぞれクラスは何組なんだ?」

とまた薫先輩が問うので、それぞれ答えていった。

「へー、糸石と俺、同じ9組なんだ」

薫先輩は私の方を向いて言った。

「同じクラスだと、今度の運動会で同じチームになるな!頑張ろうな、糸石」


「お前らって何か趣味とかある?」

とまた、薫先輩が問う。そしてまた、三人とも次々と答えていった。

「へー、糸石もファイヤーエンブレムやってんのか! 俺もやってる。面白いよな!」

薫先輩は嬉しそうに笑って見せた。

恐らく、同じ趣味の人間がいて嬉しかったのだろう。



 

 ……なんかさっきから視線を感じる気がする。と、ふと見ると、理絵が私を睨んでいた。

「どうしたの?理絵さん」

と呼びかけたが、理絵は

「あんたと話すことなんかない!」

と怒っているようだった。理絵が相手に対して、あんたって言うのはとても珍しい。




 急に怒り出すなんて、理絵さんらしくないな、と思いつつ私は打楽器の練習をしていた。

だけど、なんかすごく睨んでいて、怖い。


 そして、部活が終わった後、理絵から、「話がある」と言われた。

美代子は、一緒に帰ってくれる友達がいないみたいなので、

「三人で一緒に帰りながら話そうよー」

と言ったが、理絵は

「刃純さんとだけ、話がしたい」

と、とてつもなく強い口調で言った。




 今日は理絵さんと、帰路に着くことになった。

無言で気まずい思いで歩いていた。話ってなんだろうと思いつつ。

理絵は割と長い距離を歩いて、人気がない道に入って、周囲に人がいないことを確認するかのように見回すと、

「刃純さん、交換して……」

と唐突に言い出した。


「何を?」

先程までの態度があまりにも恐ろしかったので、恐る恐る聞いてみた。

すると、理絵は、少しムッとした表情をして答えた。


「誕生日と、クラスと、趣味」


「……え?」

私は何を言っているのか分からなかった。

「だから、誕生日と、クラスと、趣味」

私は、何を言っているのか、まだ理解できないでいた。


「趣味ってのは、ファイヤーエンブレムって言うのが好きっていう趣味」

理絵の言葉の意味が分からないが、分かってきた。


「代わってあげたくても、無理だよ」

私は勇気を出して言ってみた。

「話にならないね、刃純さんって。って言うか、狡い」

理絵の珍しく冷静さのない言葉に、なんかすごいなと呆然と思った。




 恋は盲目って言うけど、マジだ……。

私は怒るとかそう言うのを忘れて、なんか感心した。


 そう思った時、ちょうど帰り道が別れたので、別々に帰路についた。

無言で理絵は別れた。理絵が挨拶を欠かすのも珍しい。

「助かった……」

私は安堵していた。

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