自分の言ったこと貫きなよ

 美代子が小学生の時代から言っていたセリフの一つがある。

 

「うちはねー、アニメとか漫画とかくだらないものは一部しか見ない主義なの。シャンプみたいな野蛮な雑誌なんて絶対見ないの!」

そしていつも、こう続ける。

「シャンプ買ってるあなたの家族ってサイテー!!!」


 私は家族のことを悪くて腹が立っているが、ここで言い争っても分かってもらえないのは分かっている。

「あなたはそう思うんだね」

「そうに決まってるじゃん、サイテー!!!」

いつも決まって、アニメや漫画をバカにする美代子。


 そんなある時、私はシャンプで連載されているある漫画にハマっていた。

「ショショ面白いなー!」




 私はまた、美代子が一人で帰るのが寂しいやらなんやらで、学校から家までの帰路に付き合わされる羽目になっていた。

美代子は意気揚々と、今日もまた自慢話と私への嫌味が止まらない。

「友達がねー、刃純さんよりねー、良いセンスの……」

その時もまた、友達だと思い込んでいる人についての話をしている。


 だけど、最近、漫画やアニメをバカにしなくなったな?

とふと思っていた。

それと私はその時、ショショの微妙な冒険と言う漫画にハマっていたので、ちょっと話題に出してみる。


「最近私、ショショって漫画が好きでね、シャンプに載ってるんだけど」

と会話の隙間に会話を挟み込んでみる。

すると、美代子は暗い顔をし始めた。


「みんなもなんか、そのシャンプのショショが面白いって言っててね」

美代子が暗い顔を続行させながら、小さめの声で話し出す。

「へー、やっぱり。面白からなあ、ショショ」


「みんなって言うのは誰?友達のこと?」

と私は軽い気持ちで訊いてみた。

するとそんなことあるのかと言う答えが返ってきた。


「私以外のクラス全員」


「へー」

へー、と言いながらも私は驚いていた。

クラス規模でショショはやっているんだ、そこまで行くと珍しいケースだ。

更に、美代子は衝撃の発言をする。


「シャンもうち以外、クラス全員の家で買っててね」


「ふーん」

次の言葉に対しても、ふーん、と言いながらも驚いていた。

いやいやいや、そこまでシャンプって読まれてるものなの? と。


「でも、美代子さんはシャンプは野蛮だし、読んでるのサイテーなんでしょ?もちろん、美代子さんは読まないんだよね」

何気なく言ってみた。


 すると、

「ねえ、ショショの単行本って何巻くらい出ていて、最新刊はいつ発売なの?」

「は?」

「シャンプ、刃純さんの家でも買ってるんだよね、貸して」


「いや、シャンプは家族で読んでるから貸せないなあ。クラスメイトとかに借りたら?」

私は、正論を言ったつもりだった。

「読んでないのバレると恥ずかしい。知らないのバレると恥ずかしいでしょ!」

美代子はキレた。


「じゃあ、自分で買えば?」

私は、正論を言ったつもりだった。

「……冷たいこと言うね」

「は?」


「友達が困ってるのに、助けてくれないの?」

美代子がいよいよ訳の分からないことを言い出す。

「美代子さん、前、私のこと友達でもなんでもないって言ってたじゃん」

「意地悪だね……」


「じゃあ、友達に愚痴れば?私が意地悪だって」

別に愚痴られたところでどうでもいいし、ってつもりで言った。

「言えるわけないでしょ!!!そんなことも分からないの!?サイテー……」


美代子はハッとした顔をしながらこちらを向いた。

「あの、サイテー、って言うのは冗談で……、シャンプ読ませて……」

 

「貫けば?シャンプは野蛮で、読んでると最低だって意見」

私は流石に、腹が立ってしまった。

帰り道はこの後、最後まで静かだった。




「あるんだねー、そう言うこと」

私は家でシャンプと読みながら、くつろぎながらぼやいた。

「趣味だけが友達関係の全てじゃないのに。現に楓ちゃんとか、密(ひそか)ちゃんも人気者だし」

母もそれだけ言って、

「それにしても、今週もショショ面白いねー、読んだ?」

と話題を変えた。

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