それが思い出だって知らないよ
私と美代子は同じ学年の、同じ吹奏楽部の、同じ打楽器担当の仲だった。
その時は部活を終えて、帰路に着こうとしたら、美代子が話しかけてきた。
「刃純さん、寂しいから一緒に帰ってあげるー!」
「別に1人で良いんだけど?」
と一人で帰ろうとしたら、美代子は腕を掴んできた。
「寂しいって言ってる人を放っておくなんて、サイテーだよ?」
私は短くため息をつきそうになりつつ、
「分かった、帰ろ」
とだけ言った。
それは二人とも、中学一年生の部活に入りたての頃だった。
帰り道での話題は、美代子の自慢話と、私への嫌味ばかりだった。
「あの男子がまた話しかけてきて、また構って欲しそうにして……」
なんか、勘違いしているな、その男子は私にも話しかけるし、大体、男女構わず誰にでも話しかけてるし。
「私ってすぐ人に好かれるからー、刃純さんと違ってねー」
「うんうん」
私は生返事をしたり、時にはスルーしたりするだけだった。
そんな風にして話を聞き流していたら、美代子が突然質問してきた。
「ねー、刃純さん、今練習して言える南米の曲好きー?」
唐突に質問したので、びっくりしつつ、
「いや、そこまでは好きじゃないかな」
と答えた。
すると美代子は嬉しそうにこう言った。
「性格悪いー! 先輩達の思い出の曲なのに、好きじゃないの? サイテーだね!」
私は少し考えてからこう言った。
「じゃあ、今はそこまで好きじゃないけど、そのうち好きになる可能性はあるかもね」
そして、次の日、部室で美代子が、私達の先輩でもあり美代子の姉でもある楓(かえで)と楓の友人に当たる先輩達に話しかけていた。
と思ったら、怒った顔をしながら、こちらに向かって来て、私の顔を見るなり吐き捨てるように言った。
「あんたのせいで恥かいた!」
自主練をただただしていただけの私は驚いた。
なんの話だろうと思っていたら、楓がこちらに向かって歩いてきた。
「楓先輩、こんにちはー!」
と挨拶すると、楓は私にこう言った。
「気にすることないからね。私達とあなたの価値観は違うんだから。何がどう思い出になってるかも人それぞれだし」
察してしまった。
いや、察しざるを得なかった。
「先輩、気にしてないので。わざわざ、ありがとうございます」
と笑顔で返すと、楓は一言放った。
「でも、あなたは変人で、変わった価値観を持ってると思うよ」
『変人』
その言葉がショックでしばらく呆然としていた。
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